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ベンチャー不毛なだけではない、知識重視で思考停止した「元受験秀才」が会社の老化を促進させる残念な日本企業のイノベーション事情

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地頭力を鍛える」の細谷さんの新著を、チームスピリットの荻島社長からいただいて早速読ませていただきました。

「地頭力を鍛える」は自分にとって出会ったことを一生忘れないだろうという書籍であり、つい先日荻島社長の主催された集まりで細谷さんを紹介いただいた時は、その巡り合わせにとても驚きましたw

今回細谷さんが書かれた書籍は

というもので、読んでみると最近自分がブログで触れていた、日本でなぜベンチャーが育たないのか、解雇規制緩和問題とも根っこのところで繋がることが書かれていて、この偶然性にも苦笑してしまいました。

「会社の老化は止められない」での細谷さんが論じられているポイントは

  • 会社は人間と同様、老化を一途を辿り、決して若返ることはない「不可逆プロセス」の進行である
  • うまい年の取り方を考えた上で「リセット」をかける必要がある

この2つがキーメッセージとなっています。

人間も会社も決してこのプロセスを後戻りして「若返る」ことはないのに、人間では当たり前の法則が、会社という組織体では当たり前ではなく、会社は永遠の命をもっていて成長しつづけるという前提で動いているように見えるのはなんとも不思議と細谷さんは指摘しています。

人間の寿命を越えたところで事業の継続性をもたせるための「法人格」はプラスの面も多いですが、どこもかしこも「ゴーイングコンサーン」ということを言い始め「適者生存」の法則に可能な限りは逆らおうという事をやりだすと、企業の老害からくるもがきが始まるのだろうと自分も推測します。

イノベーションの必要性を訴えている経営者は多いが、実際の社員の多くはイノベーターの行動パターンとは正反対…

ただでなくてもイノベーターとアンチイノベーターの存在比率でいくと、イノベーターのほうが少数派なのに、ここに大きな組織にありがちな減点主義、発案者が損をするのが目に見えているような組織風土では、先日のベンチャーの話もそうですがチャレンジする人が加速度的に少なくなるのは当たり前だと納得です。

合併は企業の成長手段といして用いられますが、バブル崩壊以降企業は経営規模が大きくしておけば「潰したくても潰せない」というワイルドカードが使われるケースを知り、規模拡大で老化との戦いをしている側面もあるとわたしは考えているのですが、本書においても「M&Aは老化に拍車をかける」という章があり、

混ぜる事で価値は下がる

という興味深い例を紹介してくれています。そこでは「庄屋さんと欲張りじいさん」という昔話なのですがこんな話です。

正直じいさんが、功績をあげたほうびに砂糖と塩を庄屋さんからもらった。それに倣って、何もしていないのにほうびをねだってきた欲張りじいさんをこらしめようとした庄屋さんが「お前にも砂糖と塩を与えよう」といって欲張りじいさんに袋を渡した。糠喜びした欲張りじいさん、もらった袋をあけてみたら、「砂糖と塩が完全に混ざっていて使いものにならなかった」

まぜるという行為、混ざるという現象は不可逆プロセス。混ぜる事で平均化され、個性が失われその価値も二束三文になるという指摘は非常に分かりやすいです。

この例えをつかうと、戦後日本の企業がそれぞれに頑張って、大規模化を果たし、そこにまた合併などの形で経営規模が大きくなり、どんどんイノベーターの居場所がなくなる環境ができあがってきたことの説明もついてしまいますね。(ちなみに自分としては音楽におけるバンドなどは混ぜるというより、組み合わせるという考え方をしているのではと思いました)

「砂糖と塩」混ぜるべからず。

この例えば覚えておくといろいろ便利なことがありそうです。

アンチエイジングは出来ても老化はさけられない。その老化のプロセスをできればあまり無惨なものにしたくないので、自分も必死に考え、行動しています(ただこの行動の割合や結果が伴わないのが自分の悩み)

真面目に、こんなに生活を維持していくこと、仕事を維持していくことを考えたことは無いと言えるくらい日々悩んでいて、このような感覚に陥るなど、10代、20代の頃には絶対に想像つかない感覚だろうと思う点においても、若さと老化という見方がこれほどマッチするのか…とこの本を読んで考えました。

パラダイムが180度違う人材が同居しているというのはある意味不幸であり、多様性があるのとは違うという指摘もまったく同感。

「面白い人やことを面白いと思えること」が面白い人である条件であり、「面白さ」という座標軸を持っていないかぎり「面白い」とは思えない…

新しいネタをプレゼンして通じないときの場のつらさを思い出す話ではありませんか(苦笑)

そういえば自分たちは新人類とか言われた世代だったような気がしますが、アンチイノベーターとイノベーターの視点の非対称性は埋まる事のない溝のようのものです。

思考停止したアンチイノベーターは一面しか見ないし他は見たくないから、受け答えはこんな感じになってしまうのではないでしようか?

  • 考えておこう(実は考えない)
  • それはスバラしい考えだがね
  • 理論はその通りかもしれないが、実際はまた別だからね。
  • 理論は結構だが、実行はどうかね。
  • その考え方はすすみすぎている。
  • それでは変化が大きすぎる。
  • そんなことはかってやったことがない。
  • そりゃトップが承知すまい。(自分も承知していない)
  • 古い人には頭の切り替えができんだろう。
  • そりゃ、むずかしい。特にこの会社では。
  • 売込みがむずかしかろう。
  • みんなが納得するかね。
  • どこかでやったことがあるかね。
  • よそでやった結果をみてからにしよう。
  • そのほかにやるべきことが山ほどある。
  • 費用がかかりすぎる。
  • 予算がない。
  • われわれのような仕事にはうまくいくまい。
  • 会社が大きすぎる(又は小さすぎる)
  • そことは事情が違う。
  • われわれの仕事は特殊だからね。
  • 人手がない。
  • 忙しくて時間がない。
  • それはわれわれの問題ではない。
  • われわれの責任外だ。
  • 時期尚早
  • 今は実行のときではない。
  • しばらく見送ろうではないか。
  • そんなことをせんでもすんできた。
  • 前にやったことがあるがうまくいかなかった。
  • 現在の設備が無駄になる。
  • なんでそんな変更をする必要があるのか。
  • そりゃ会社の方針に反する。
  • そんなことをすると世間が笑う。
  • もっと現実に即して考えようではないか。
  • そりゃだめだ。やってみなくても分かっている。
  • 冗談じゃない。
  • なっとらん。
  • バカをいえ

これだけ沢山ならべたが、アイデアを殺すにはこんなに沢山はいらない。「バカをいえ」がひとつあればたくさんである。

上野一郎「問題解決の知恵」より

さらに、表裏が白黒で、同じモノを見ていても見解が180度異なるという図が紹介されていてこれはこれで理解できるのですが、現場での妙なズレの感覚をもう少し実態に即した形で表せないものかと考えてふと浮かんだのはこのだまし絵です。

このだまし絵、過去に正しいと言われることを教えられた人は、無意識のうちにそれにとらわれていて、独自の見方をすることができにくくなるという例としてわたしは知ったのですが、いかがでしょう?

皆さんはこの「だまし絵」過去に見たことありますか?

過去にこの絵を見て、「若い女性」と「老婆」という答えを覚えていた人は、必ず「若い女性」と「老婆」答えるでしょうが、過去にこの絵をみたことがなかった人はそう答えるとは限らず、この絵をみたことがない人には「ブルドック」と「ハゲタカ」と答える人もいるのです。

ここで強調しておきたいのは、「ブルドック」と「ハゲタカ」と答えた人に「若い女性」と「老婆」の見方を伝えても納得してもらえるので、この人たちには「ブルドック」と「ハゲタカ」しか見えないのではないという事。

妹尾 堅一郎著:情報解釈力を鍛えるより

過去に正しいと言われることを教えられた人は、無意識のうちにとらわれていて、独自の見方ができにくくなると考えると、現在の日本企業の成功体験に縛られた老化現象の弊害がより分かりやすくなるのではないでしょうか。

イノベーターとアンチイノベーターがそもそも見ているところが違うという不可逆性に同意しつつも、多くの企業ではイノベーションの必要性が叫ばれていて、創造力を伴う問題解決能力をもつ人材はこの時代大変貴重な存在になれるはず。

イノベーターは欧米圏におけるクリエイティブ思考ができる人材だとわたしは考えていて、ブレインストーミングを考案したA・オスボーンの著書「創造力を生かす」はこの観点で大変役に立つ書籍だと思います。

その最後の一節にはこんなことが書かれていて、

アメリカの運命は他の国々の手にゆだねられているのかもしれない。かつて日本はアメリカの大きな脅威だったが、日本には大切なものが欠けていた。その一つがイマジネーションである。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は早くからこのことについて予言的な言葉を発している。「日本人はイマジネーションに欠けている。これを獲得しなければ地上から滅び去るであろう」

かつてドイツは日本よりも大きな脅威だった。創造力では世界のどこにも負けない科学界の選良を擁していたからである。しかし厳格な一律化でイマジネーションを萎えさせてしまった。

中略

今までのところ、創造力は、やりたいという衝動と自由が一体となりうる民主主義のもとに花開いてきた。根本的な危険は、今後自由は放縦を生み、無感動が創造力を枯れさせはしないか、ということである。

この危険を防ぐにはどうすれば良いか?この問題はひとり教育者のみならず全アメリカ人に対する大きな挑戦である。

そして、細谷さんの後書きでも、こんな一節が、

「会社の老化」について述べてきたが、考えてみれば「社会の老化」についてもほとんど同じことがいえるだろう。

中略

人々に特徴がなくなって平均化し、尖った人が少なくなり、リーダーも「誰がやっても同じ」という雰囲気が蔓延し、複雑な規制にがんじがらめにされて、批判ばかりで有効な代案が少なく、何事にも「わかりやすさ」が求められる。……まさに本書で指摘した会社の老化と同じ症状が出ている。

小泉八雲は明治時代、A・オスボーンの著書は1969年、上野一郎の著書が1978年。そして今日紹介した細谷さんの新著が2013年。さまざまな時代であっても日本人に対して指摘されている根本的なところが一緒というところを考えと、日本人というものの老化をどう考えるべきか、こんど細谷さんとお会いする機会があれば是非話してみたいテーマですw

ちょっと普段よりも長くなってしまいましたが、「会社の老化は止められない―未来を開くための組織不可逆論」面白いので多くの方に読んでいただきたい書籍です。

最後に、細谷さんと知り合う機会をいただいた荻島さんにもこの場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。<(_ _)>

【参考文献】

  • 創造力を生かす―アイディアを得る38の方法 アレックス・F. オスボーン、Alex F. Osborn
  • 問題解決の知恵 上野一郎
  • 情報解釈力を鍛える 妹尾 堅一郎
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