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キュレーションとイノベーション ― 「既存資産の有効活用」の本当の意味

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みなさまこんにちは。

少し前に、Webサービスの界隈では、「キュレーション」という言葉が流行りました。
一言でいえば、「情報集約サービス」ということになるでしょう。
「グノシー」や「nanapi」、「NAVARまとめ」などに代表される、インターネット上にあふれかえった情報をある程度選別し、我々に見やすい形で提供してくれるサービスのことです。

インターネットがすっかり情報の基本インフラとなり、世の情報がこれだけ集積されてくると、もはや個人ですべての情報をチェックすることは到底不可能です。
自分にとって意味や価値のある情報を発見するだけでも相当な時間的・労力的コストがかかるようになってきました。
その結果として、こういった「情報を選別・集約する」ことの価値が高まってきた、ということができると思います。


既存の集積による価値創造

言ってみれば、既にあるものを集めることでそこに新しい価値を生み出す、という、何だか錬金術のようにも思えるスキームです。
しかし、このスキーム自体は、多くのイノベーションにとってごく普通に行われてきたところでもあります。

例えばSNS。それまでにもインターネット上には「掲示板(BBS)」「eメール」「チャット」といった、コミュニケーションに関わるサービスは存在していました。
これらを組み合わせ、一つのIDで統合するだけで、新しい世界が生まれ、価値が生じ、新しい概念として確立されてしまった。それがSNSの正体です。

例えばケータイ。スマートフォン以前の従来の携帯電話の方が実は顕著なのですが、電話とブラウザとメーラーと音楽再生、おまけにカメラまでを組み合わせることで、「ケータイ」という「新しい何か」を生み出してしまいました。
iPhoneが開いたスマートフォンという新しい地平は、この「ケータイ」の土壌の上に、ピンチイン・アウトに代表される圧倒的なユーザインタフェースの向上によってもたらされたものと見ています。

つまり、イノベーションの源泉は、多くの場合既にあるものに潜在していたと言えるわけです。
「既にあるもの」をいくつか組み合わせることで、相乗効果をもたらし、新しい「価値」を生み出してきたのが近年のイノベーションだと私は理解しています。

キュレーションの流行は、昨今のインターネットが生み出す環境下で、それが最もプリミティブな形――集積し、整理することそのものに価値が生じたと言えるでしょう。


「既存資産の有効活用」の本当の意味

こういった「既にあるもの」からの価値創出は、何も社会現象を巻き起こそうとする大きな志にのみ必要とされるわけではありません。
ゲームのルールを変える発想は、日々の業務の中でも常に有効であり、昨今のビジネス変化スピードの中では、そういった発想こそが競争力を左右するといっても過言ではないでしょう。

「既存資産の有効活用」というのはよく謳われる文句ですが、大抵の場合、その意味するところは、例えば今の空きスペースを、他であふれているものを納めるのに使う、というような用途変換による「無駄の削減」に終始している気がします。
それはそれで大事なことですが、「既存資産の有効活用」が本来持つパワーは、そんなものではないと私は思っています。

つまり、上で述べたような組み合わせによる新たな価値の創出こそ、目指すべきところだと思うのです。

多くの企業では、未だ業務機能ごとにシステムが独立してしまい、情報も分断されていることがまま見られます。
売上情報と顧客情報を紐づけるだけでも、随分と新しい世界が見えてくるはずです。基本的な話ですが、ここすらもなされていないところが多い。
その新しい世界に立てば、さらにその先の活用方法が見えてきます。視点が変わらないと、見えないものは確かにあるのです。

企業にとって、殊に今日においては、「情報」こそが人材と並ぶ最大の資産です。
この既存資産を活性化できるか否かが、今後の優勝劣敗を決定づける要素であると確信しています。


とはいえ、この活性化、言ってみれば「既存資産価値の最大化」をするためには、既存資産の棚卸だけではなく、その活用に必要な技術要素に対する知識と理解が必要になってきます。
日々の業務に追われる中、なかなか世の中のトレンドを追いかける余力もないことも現実かと思います。

餅は餅屋、ではないですが、そういったトレンドを日々追いかけ、組み合わせの妙を探っているのが我々のようなITに関するコンサルタントです。
ユーザー企業の皆さんには、まず技術が何をもたらすか、ではなく、技術を使うと既存の資産から何が生み出せるか、という視点で業務の再構築をお考えいただくこと。
そして現在のトレンドや今後の見通しに関する情報を補完するために、そういった情報のキュレーターとしてコンサルタントを使っていただくのが、一番賢いやり方かと思います。

そういう、イノベーションのお手伝いができることこそは、コンサルタントたるものにとっていつでも望外の喜びなのです。

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