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時代の潮目にあるビジネスとICTの幸福な関係をクラウドコンピューティングの視点から考えます。

システムのデザインにあたって ―― システム構築に関わる3つの側面

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みなさまこんにちは。

あっという間に、仕事納めの日になってしまいました。
本当に光陰矢のごとしといいますか、年を経るごとに一年が短くなっていくようです。
陳腐な表現で恐縮ですが、ホントにそうなのですから仕方がない。

年末風物詩の今年の漢字は「安」に決まったそうで、流行語大賞ともども、個人的にはどうもピンときませんが、何はともあれ2015年も終わろうとしています。

さて、今回はシステムの大きな絵姿を描く段において、重要と考える3つの側面についてのお話をしたいと思います。

システムだけを考えていても良いシステムはできない

当たり前の話ではありますが、システムだけを考えていても良いシステムはできません。
システムは単体で意味を持つものではなく、何らかの目的を達成する道具、手段に過ぎないからです。

ところがテクノロジーファーストな巨人たち、アップルやグーグルの急激な台頭と市場の席巻は、「技術革新」という言葉を金科玉条と化し、論調や雰囲気としてのIT至上主義が行き過ぎてしまったように感じます。

いわく、「イノベーション」といえば「技術革新」のことであり、最新のIT技術が最良の世界を生み出す。
各企業がグロ-バル市場で生き残るためには、何はともあれ最新のIT技術を導入しなければならない。

こういった論調、一面的には真実が含まれると私も思います。
最新技術のキャッチアップは競争力の確保のためには常に必要です。
が、無条件に「ともかく導入」はどうでしょうか。
主客逆転、手段の目的化を起こしてはいないでしょうか。

もちろん、「技術革新」の価値や、アップルやグーグルの功績について疑うつもりは毛頭ありません。
Windows95発売に始まるインターネットの市民化、同時期から起こった携帯電話の普及という、技術革新にともなう「新たな社会インフラ」は、私たちの生活を大きく変えました。
その新しい社会インフラを、グーグルは圧倒的な質量を兼ね備えた検索という分野で、アップルは携帯「電話」を携帯「情報端末」へ進化させたという点で、彼らは間違いなく次の次元へ押し上げてきたわけです。その功績は計り知れません。

ただ、彼らは学級的な意味での「技術」にこだわることでその価値を生み出したわけでは決してないでしょう。
既存の技術を組み合わせ、あるいはそれが及ばない世界を新たな技術を生み出して補完することで、ゲームのルールを変革し、パラダイムシフトを起こしてきたのです。
そこには「どう世界を変えるか」というビジョンがあり、仮説の立案とトライアンドエラーを繰り返す冷徹な「ビジネスの目」が存在します。
生まれては消えていったグーグルのサービスのいかに多いことか。

つまり、テクノロジー・ファーストの権化のように思われる彼らも、決してコンピュータ・テクノロジーのみに傾倒した集団ではないのです。少なくとも舵を執っているリーダーたちは。
ギーク(技術オタク)が作った何か変わったものが、たまたま大当たりしたわけではありません。
何よりも先に、彼らの視点には「どう世界を変えるか」というビジョンが存在したはずです。

基本的にB2Cビジネスである彼らの変える世界は、原則的にはプライベートな個人の生活空間が主眼になります。
しかし、こういったシステム(コンピュータ・テクノロジー)と現実世界の関係性は、当然B2Bの世界でも同様の構造を持つはずです。

われわれ「インテグレータ」と呼ばれる存在は、この構造――システムは目的を達成する道具である――を肝に銘じてことに当たらなければなりません。
B2Cにおいては「消費者の生活をいかに変えるか」がイノベーションの源泉ですが、B2Bにおいては「ビジネスをいかに変えるか」が主眼になります。

つまり、良いシステムを構築するには、「そのシステムが導入企業のビジネスに何を起こすのか、その変化に価値はあるか」というビジョンがまず必要です。
その上で、具体的な変化の仮説とその目的を明確にする必要があります。

そしてこれはシステム構築・導入の企画の段階で行わなければなりません。
システム開発の一環である要件定義は、既に要件自体の妥当性を斟酌する段階ではないからです。

この仮説と目的の明確化、ビジネスの要求分析に当たるアプローチとして、われわれはシステムの根底となる環境を3つの側面でとらえるようにしています。
システム側、管理側、現場側の3側面です。

3Dコンセプト

ここまでお話してきたように、3つの側面からのアプローチを総称して、3Dコンセプトと名付けています。
システムの計画段階の支援をさせていただく際に、3つの側面(Dimension)を総覧し、それぞれの変化後の姿をデザイン(Design)するというダブルミーニングです。

3DConcept.png
3Dコンセプトの概念図。
相互は相関し、単体での検討では齟齬が生じると考えています。
(クリックで拡大)

側面相互の関係性は、基本的に要求と制約に集約できると考えています。
要求は期待であり、制約は限界を定めるものです。

例えばマネジメントが日々の業務の視える化を欲したとします。
1時間ごとに進捗を報告するというオペレーションは何とか実現できたとしても、分単位の進捗を求めたならばオペレーションが破綻する、これがマネジメントと業務との要求と制約の関係です。

では報告の自動化をシステムに望んではどうか。
例えばそれがコールセンター業務だったとして、想定しているシステムでは架電件数や着信件数はカウントできたとしても、通話内容の文字変換までは実現できない。あるいはすべての通話を音声データ化して格納してしまうとストレージ容量がパンクする。
そういったシステムの限界=制約が発生します。

こういった要求と制約をどこでバランスするか、それがコンピュータシステムと実運用を包含した広義の「システム」の成否を分けるものになるでしょう。

そしてもうひとつ、この3Dの輪そのものを規定する、さらに上位の制約条件があります。
リソースです。
時間と費用が無尽蔵にあるのならば、すべての要求は無条件に満たせることになります。

コンピュータシステムの構築・導入に関わるプロジェクトにおいては、リソースの量はほぼアーキテクチャの制約と考えていいでしょう。
そのため、多くの場合、この部分にのみ焦点が当たり、システム単体、特に機能面でのできるできないに終始しがちです。
しかし有限のリソースの効果を最大化するには、この3つの側面をそれぞれ分析し、来るべき姿を相関させてデザインすることが求められるのです。

また、ここで言う「バランス」とは、「すべてを平等に」という意味ではありません。
そのプロジェクトがどんな変化をもたらそうとしているのか、その目的、獲得目標によって各側面の軽重は変化します。

システムのトータルコストが目的ならば当然アーキテクチャの制約は大きくなります。
単位時間当たりの生産量を増大したいならば業務側の要求が尊重されますし、管理指標の精緻化が求められるなら業務現場での負荷が増大することもあるでしょう。

つまり、この要求分析、デザインのコンセプトは言ってみればこれ自体が手段に過ぎません。
何より大事なのは、「このシステムの導入によって、どうビジネスを変化させたいか」というビジョンです。

そのビジョンを定め、遂行するための意思決定は、開発請負側であるインテグレータには無論のことできません。
この部分だけは、ビジネスの当事者であるクライアント側にしかできないのです。

しかしそれが定まりさえすれば、そのビジョンを定められたリソースの中でいかに具現化し、効果を最大化するか、その検討において、お話してきた3Dコンセプトは十全に効果を発揮するものと信じています。

そしてまた、このアプローチによって要求分析とデザインを繰り返すほどに、クラウドのメリットと利用者側の意識変革の必要性も浮き彫りになってきています。

次回以降、この3側面をそれぞれ詳解するとともに、クラウドの導入効果とその最大化に向けた考え方をお話していきたいと思います。

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