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時代の潮目にあるビジネスとICTの幸福な関係をクラウドコンピューティングの視点から考えます。

潮流と兆しと ―― これからのICTについて考える

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みなさまこんにちは。

世間は目前の選挙で賑わしくなってきておりますね。
選挙権を手にして以来、皆勤で投票している私ではありますが、このところの政治の本質を外れたところでのドタバタ劇を見るにつけ、もう少し何とかならないものかと思ってしまいます。

そんな中、先日ラジオを聞いていて話題に上がっていた「シビックテック(CivicTech)」が印象的でした。

ニュルブルクリンクでFF最速をマークしたホンダのシビック・タイプRの技術......ではもちろんなくて、「フィンテック(FinTech)」同様の造語で、シビック(Civic: 市民の)とテクノロジーの掛け合わせです。
要は、インターネット発現以降のコミュニケーションテクノロジーと、AIの技術をもって、低コストに市民サービスを向上させようという考え方だと理解しています。

利害関係を超越したところでの判断や不特定多数に対する個別最適なサービスの提供という面において、確かに現代の、あるいは近未来のICTは相当威力を発揮するだろうと感じました。

とはいえ、コトがコトだけに、「技術的に可能である」「経済合理性が高い」というだけで実現できるものでもないだろうとも思います。
ことはおそらく人間の本質にもかかわってくるところと思いますので、医療分野での技術進歩の「神の領域」ジレンマと同様、倫理・哲学の問題をクリアしないといけないでしょう。
技術が充足するスピードと比して、実現までには遥かに時間がかかるのではないでしょうか。
ラリー・ペイジ氏よりもマイケル・サンデル先生の領域な気がします。

さて、ビジネスの世界でも、この文脈に相通ずるところで、かなりダイナミックな動きが出てきているように思います。
しかもこちらはさほど倫理・哲学に抵触するわけではないので、勢いがつけば加速度的に広まっていくでしょう。
マーケティング領域でのイノベーションです。

MA(マーケティング・オートメーション)というもの

このところ例えばSalesforce社のイベントに参加しても、メッセージがマーケティング・ソリューション一色、ということを特に多く見かけます。
マーケティング担当者の負荷を下げ、多くのマーケターが理想としてきた「One To One マーケティング」を可能にするものとして、MAツールは比較的早い段階から登場していました。もっとも当時はまだ「MAツール」とは呼ばれず、「キャンペーン・マネジメント・システム」などと呼ばれていましたが。

嚆矢の一つとなった老舗の製品が、のちにIBMが買収したUnica社の製品(現在の商品名は「IBMキャンペーン」)です。同社の創業は1992年。
四半世紀近く前には、現在のMAの原型が存在していたことになります。
顧客の行動を基にした個別プロモーションのシナリオ、昨今で言う「カスタマー・ジャーニー」の設計インターフェースなど、この製品が現代のMA群に大きな影響を与えていることは確かでしょう。

しかし、世間一般の認知度はさほど高くなりませんでした。「知る人ぞ知る」というところだったかと思います。

理由はいくつかあるでしょうが、オンプレミス商品であるために、初期投資が大きくならざるを得ない、ということがやはり一番大きかったと思います。
マーケターなら必ず食指の動く魅力はあったと思うのですが、相当の企業体力がなければ投資できない額が前提となると、ムーブメントを起こすのはやはり難しいということでしょう。

ところがここへきて、この顧客に応じたプロモーション、リードジェネレーションやリードナーチャリングを自動化するツール群が、クラウドレイヤーに続々と登場してきました。
Hubspot、Marketo、Oracle の Eloqua、Salesforce の MarketingCloud と Pardot、等々です。

自社及び対象とする企業規模や、マーケティング組織の人員数など、自社での運用スケールに応じた費用感でMA利用が可能になったことで、この領域への興味と試行の高まりが起こったのではないかと思います。
また、Webがもはや当たり前のコミュニケーション・チャネルとなり、しかもこれまでのチャネルとは比較にならない量と多様な対応が必要になるという社会的変化も、もちろんきわめて大きな要因でしょう。

ご多分に漏れず、このムーブメントも米国が先行しているわけですが、いよいよ日本にもその波が押し寄せてきている感があります。
矢野経済研究所の公開資料*によれば、2020年にはMAの市場規模は420億円、2014年の実績168億円と比較しておよそ2.5倍の成長が見込まれています。
*矢野経済研究所:DMP(データマネジメントプラットフォーム)サービス市場/MA(マーケティングオートメーション)サービス市場に関する調査結果 2015

あまた存在する不特定多数の顧客候補者の行動を逐一把握し、その行動に最適なアクション/リアクションをとり続ける。
これが可能になればマーケターの本懐なわけですが、「人間の力」だけでは不可能ごとであることは容易に想像の付くところです。
これを、少なくとも理論上は可能にするのがMAツールということになるわけで、大量の同時発生的な事象をほぼ同時間軸で捌くという、ICTの最も得意とする領域を活かした革新、イノベーションと言っていいものでしょう。

これまでのマス・マーケティングの延長でなく、One To One に近いマーケティングを実現できるとすれば、マーケティング費用のROIは劇的に改善する可能性があります。
今後は、このMAツールのあることが優位を保つ、のではなく、MAツールなしでは戦えないという程にまで企業のプロモーション構造を変えてしまう破壊力があると私は見ています。

もちろん、顧客の行動に対するリアクションとして、あるいはオファリングするメッセージの形態や文面として「何が最適か」は、依然としてマーケターの手に委ねられています。
というより、そういった「マーケターの本分」にのみ注力して、実行部分は自動化に任せることができる、というところこそが、現在のMAツールのバリューそのものと言えましょう。

昨今のMAの興隆は、One To One マーケティングを一部の特別な企業のみならず、すべての企業に可能たらしめるイノベーションの潮流だと感じます。
のみならず、次代のマーケティング環境にさらなる変化をもたらす、次のステージへの兆しだとも......。

――いずれ、MAを利用した試行錯誤の結果が十分に蓄積されて来れば、その背後にAIを配される時が来るであろうことは想像に難くありません。
最適解をAIがはじき出し、顧客候補のスコアリングや、ナーチャリングのシナリオ生成までを自動で行うことが可能になったとき、マーケターの仕事や組織は大きく変わることを余儀なくされることでしょう。

......もっとも、コンピュータが自動的に「個」客に最適なオファリングを行う、ということ自体は、Amazonが創業当初より行い続けてきたことでもあるわけなのですが。



さて、恐縮ながら最後に少しだけ宣伝を。

来る2016年7月22日(金)、弊社テラスカイでは TerraSKy Day 2016 というイベントを開催いたします。
クラウド関連のビッグネームも数多くご招待してのイベントになります。
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不肖私も、1つセッションを持つことになっており、今回の論題としたMAをはじめ、今後の企業ITの展望などお話しするつもりでおります。
お時間にご都合の付く方は、ぜひおいでいただければ幸いです。

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