Dreamforce 2016 ―― Salesforce の夢
みなさまこんにちは。
アメリカ西海岸、カリフォルニア州はサンフランシスコに来ています。
西海岸の抜けるような青い空。
サンフランシスコの誇る大展示場、Moscone west です。
そう、Salesforce 年間最大のイベント、Dreamforce が訪米の目的です。
米国西海岸時間で10月4日から7日までの4日間にわたって行われた、2016年の Dreamforce。
今年は登録者ベースで17万人と聞いています。
相変わらずものすごい盛況です。
メイン会場のMoscone center。左が north で右が south。
午前中のセッション中なのであまり人が見えていませんが、ランチタイムともなれば芝生が見えないほど人で埋め尽くされます。
そんな今回の Dreamforce も、そろそろ終幕を迎えようとしています。
そこに込められた Salesforce の考えは果たしてどういうものだったのか、私なりに読みといてみたいと思います。
なお、弊社テラスカイのメンバーも多く参加しており、各テーマやセッションについてブログをしたためています。
このあとここで語りたいことは、全体を通じての印象で、個別の話題についてはさほど掘り下げておりません。
個々の話題は是非コチラをご覧下さい。
さて、彼ら自身が明確に言語化しているところでは、次の2つのキーワードから今回の Dreamforce のメッセージを強く感じます。
"Ohana" と "Be a Customer Trailblazer" の2つです。
Ohana
Partners Keynote より。
Ohana Spirit がイノベーションを生み、顧客の成功につながるという寓意の図。
"Ohana" とは、ハワイの現地語で、「家族」あるいは「家族同然」の存在を意味する言葉だとか。
Salesforce にとって、サービスを利用する"customer"はもちろん、共にビジネスを行う"partner"もまた「家族」であるというわけです。
初日の Partner Keynote では、これまでの"ISV"という使い古された呼称を脱ぎ捨て、今後は"Application Innovation Partner"という、新しい呼称を用いることが語られました。
言うまでもなく、これまでも Salesforce は、AppExchange という手法を用いて、プラットフォームの機能をサードパーティの力で補完する戦略を採り、そのエコシステムの構築に多大な投資を行ってきています。
Salesforce 自身による機能拡充や(M&Aによるものも含めた)新規サービスの開発の勢いも驚異的なものがありますが、AppExchange すなわちサードパーティによる機能・サービス補完が、このプラットフォームの魅力や価値を高めてきたことは間違いないでしょう。
語弊を恐れずに言えば、Salesforce は常にサードパーティを "partner" とし、その力を利用し続けてきたわけです。
そしてもちろん、AppExchangeに参加しているサードパーティも、Salesforce という「場」を、ビジネスチャンスとして利用し続けてきました。
また、Salesforce が他力を頼ってきたのはこの AppExchange だけではありません。
これまでも、彼らは一貫して「あくまでプラットフォーマー」としての立場に徹し続けてきました。
従って、 Salesforce をいかに利用してビジネスにインパクトを生むかというユーザサイドの戦略面や、ユーザの特性に応じたカスタマイズの実務に関しては、Salesforce 自身はコアビジネスとはしてきませんでした。
この点では、コンサルティングやインテグレーションを生業とする企業にも、Salesforce という「場」に参画の余地が有り、Salesforce はこれらの企業の力を借りてきたのです。
プラットフォーマーとしては当然のことかもしれませんが、このエコシステムの価値を十分に理解し、生命線として中心に据え続けていく。
当初からすると比較にならないほど巨大に成長した現在に至っても、その重要性はいささかも変わることがなく、むしろ増大している。
ISV を "Application Innovation Partner" と呼び、パートナー全体を指して "Ohana" と呼ぶ今回の発表からは、彼らのそんな思いが感じ取れ、よりパートナーとの緊密性を増していこうとする Salesforce の戦略の方向性が垣間見えたような気がします。
Be a Customer Trailblazer
"Trailblazer" とは後続のために、道を切り開いて道標をつけて行く人のこと。
「先駆者」と和訳されることが多いですが、個人的にはナタを振るって山林に道を作っていく、といったワイルドというかたくましい印象を強く受ける言葉です。
ともかく、顧客のために「ビジネスの成功への道」を作っていく、そんな存在になろう、と、そういう思いが込められたメッセージだと受け取っています。
Salesforce が少なくともここ数年に渡り、常にキーワードとして使っている言葉の最たるものが "Customer" です。
彼ら自身はテクノロジーベースの企業であり、提供している「商品」はテクノロジーそのものであるものの、そのバリューを訴えるにあたっては、そのテクノロジーを使う企業が、その顧客に対して何をなしうるかを主題にし続けてきました。
Salesforce が "Customer" という言葉を使うとき、それは彼ら自身の顧客、プラットフォームユーザを意味してはいません。
プラットフォームユーザが、プラットフォームを利用して提供するサービスの受け取り手、エンドユーザを指しているのです。
つまり「私たちはあなた方のお客さまにとって有益なサービスを提供しているのですよ」と語り続けてきたということです。
当たり前のように聞こえますが、これをブランドの軸に据えて、一貫して訴え続けている企業は実はそう多くありません。
ブランドメッセージ自体が、自分たちの直接のクライアントに対して「顧客優先であれ」とある意味迫っているわけですから。
時代がデジタルシフトしていく中、いかにして "Customer" の動向や嗜好をいち早く捉え、「道を切り開いて」顧客満足を得る企業へと自己変革していくか。
Salesforce が提供するサービスを利用すれば、それが実現できる、彼らはそう言っているわけです。
そしてこのところ、プロモーショナルな面で彼らが特に力を入れているのがマーケティング領域であり、エンドユーザにコンシューマーを見据えたサービスです。
今回の Dreamforce でも、最新の "Cloud" シリーズとして、Commerce Cloud がラインナップに加わることが発表されました。
しかしこれまで Salesforce が主戦場としてきたB2BとB2Cでは、自ずと "Customer" の性格も捉え方も当然違ってきます。
その多様性を飲み込んで、最も適切な「答え」を、プラットフォームユーザにどう与えるのか。
その命題に対して、今回の Dreamforce を通じて提示された現時点での解答が、Einstain なのだろうと考えます。
Salesforce Einstain
Einstain は単体のサービスではなく、プラットフォームの中にエンジンとして組み込まれます。
右下は Einstain のマスコットキャラ。
Einstain の技術的なところやサービスの詳細は、すでに多くのところで語られています。
詳しいところはそちらに譲るとして、一言で表すなら、プラットフォームに内包された AI エンジンの呼称です。
- Sales Cloud において、商談の確度を自動的にはじき出し、優先すべき商談や取るべきアクションを示唆する
- Marketing Cloud において遂行中のカスタマージャーニー上の問題点を発見し、打ち手を示唆、あるいは自動生成する
各種 Keynote では例えばそんなことが語られていました。
実際問題としての実装レベルやその現実性は正直まだ未知数ですが、少なくとも蓄積された行動情報に対する分析の分野では、確かに威力を発揮するのではないかと思います。
いわゆるインサイト Insight の領域です。
とはいえ、現実に Einstain が営業マンやマーケターの行動に強い影響を及ぼすまでには、まだしばらく時間がかかるだろうというのが正直な思いです。
基本技術の成熟や実サービスへの適用の慣熟もさる事ながら、利用者側の不信や心理的障壁も、殊に日本においてはまだまだ高いように思います。
しかしながらともかくも Einstain は今回の Dreamforce でデビューを飾りました。
少なくとも0が1にはなったわけです。
いずれブレイクスルーが起きれば、一気に広がりを見せ、AIなしにはCRMもMAも語れない、といった時代が来るかもしれません。
それだけのポテンシャルは充分あると感じています。
まとめに代えて
マーク・ベニオフは彼の keynote で、「エンタープライズなソフトウェアには、5つの変革が必要だ」と語り、それぞれに対応する Salesforce のテクノロジーを列挙しています。
- Intelligence ... Einstain
- Speed ... Platform
- Productivity ... Quip & LiveMessage
- Mobility ... Salesforce1
- Connectivity ... Thunder IoT Cloud
時代の要求に必要な条件を、Salesforce は全て備えている。だから安心して顧客満足に邁進して欲しい、というわけでしょう。
もっとも、穿った見方をすれば「エンタープライズなソフトウェア」の一般解というより、彼ら自身のサービスを体系化して上位概念でまとめ直しただけ、とも言えてしまいそうです。
しかしながらこの5つのバリュー、一般解としてもやっぱり否定しきれないのもまた事実ではないでしょうか。
私が感心したのは、この5つの変革要素とそのテクノロジーを揃えているという主張の内容よりも、バリューをわかりやすい言葉でアピールするその巧さです。
こういったところは、ビジョナリーな企業の欠かせない資質であろうと思うからです。
3年ぶり2回目の Dreamforce への参加でしたが、共通して感じたのはビジョンの確かさと、ビジネスをストーリーとして語る、ブランディングのレベルの高さでした。
実が伴っていなければ虚しいだけですが、適切な周知なくしては評価は得られないものです。
やはりこういう巧みなアピールがあってこそ、多くの支持を集め、ここまでの急成長ができたのだろうと改めて感じます。
今後 Salesforce はどういった驚きを見せ、そのブランド力を高めていくのでしょうか。
楽しみです。