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非正規の職員・従業員の割合が38.2%と過去最高なのは最悪なのか!?

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総務省が十二日発表した二〇一二年の就業構造基本調査によると、非正規労働者の総数(推計)は二千四十二万人と〇七年の前回調査から百五十二万人増加し、初めて二千万人を超えた。雇用者全体に占める割合も38・2%と2・7ポイント上昇して過去最高を更新。過去二十年間で16・5ポイント増え、正社員を中心とした日本の雇用形態が大きく変化している実態がより鮮明になった。(東京新聞2013年7月13日 朝刊)

非正規の割合が38.2%になって過去最高と言われると、「これは大変」という感じがしなくもないです。

では38.2%が本当に大変なことなのか、考えてみたいと思います。

新聞記事だけでは情報が不足です。こういう場合は、まず元ネタをあたることが重要です。

今回の発表は7月12日に発表された総務省統計局の「平成24年就業構造基本調査」の結果です。余談ですが、このような重要な統計結果を即時かつ無料でホームページから誰でも入手できることは、正しく議論する上でたいへん良いことだと考えます。

「調査の結果(平成25年7月12日公表)」の「2.結果の概要(PDF:3858KB)」をダウンロードして見てみます。

まず、38.2%の意味を確認します。この数字はどのような定義によるのでしょうか。

本統計は、「会社などの役員」以外の雇用者を、勤め先での呼称によって「正規の職員・従業員」「パート」「アルバイト」「労働者派遣事業所の派遣社員」「契約社員」「嘱託」「その他」の7つに区分しています。その上で「正規の職員・従業員」以外の6区分をまとめて、「非正規の職員・従業員」としています。(5.用語の解説より)

つまり、会社役員以外の雇用者の数が分母で、6区分の非正規の職員・従業員の数が分子になります。単純に言えば、非正規が増えなくても正社員が減れば数字は大きくなることがわかります。また世の中で働く人が全て会社役員か自営業になれば、数字はゼロになります。※個人的には正規・非正規の呼称は、正社員のみが「正」でありそれ以外は「非」である感じがして好きになれないのですが、ここでは統計の呼び方に合わせます。

13ページ「表I-9 男女,雇用形態別雇用者(役員を除く)数及び割合-平成19年,24年」によると、5年前と比較して、正規が121万人減った一方で、非正規が差し引き125万人増えています。

「正規の職員・従業員」(121万4千人減)、「労働者派遣事業所の派遣社員」(42万人減)が減少している一方、「パート」(70万6千人増)、「契約社員」(65万5千人増)、「アルバイト」(31万2千人増)などが増加している。

5年間に120万人以上が正規から非正規になったと言われると、たいへんな事が起きているように見えますね。

結論を先に言うと、私は38.2%という数字そのものにあまり意味はないと考えます。これは全業種と男女を合わせた平均でしかありません。以前から小売や飲食の業界は少ない正社員と多くの非正規従業員の構造が普通です。18ページ「表Ⅰ-13 男女,産業大分類,主な雇用形態別雇用者(役員を除く)の割合-平成19年,24年」を見るとわかりますが、すでに「卸売業、小売業」は非正規率が50.0%、「宿泊業、飲食サービス業」は73.3%になっています。

注目すべきは56ページの「図II-2-1 男女別雇用者(役員を除く)に占める非正規の職員・従業員の割合の推移-平成4年~24年」です。ここで38.2%が出てきます。

推移を男女別にみると,男性は平成4年の9.9%から上昇を続けており、24年には22.1%と2割を超えている。また,女性も39.1%から57.5%へと上昇を続けており、平成19年に引き続き,5割以上が「非正規の職員・従業員」となっている。

このグラフにあるように、男女別で見ると女性は20年前の時点ですでに39.1%になっていたわけです。

57ページの「図II-2-2 男女,年齢階級別非正規の職員・従業員の割合の推移-平成4年~24年」を見ると、さらに興味深いことがわかります。

女性の35歳未満と35~54歳の非正規の割合がこの10年間で微増であるのに対して、55歳以上は男女とも大きく増えています。

一般に55歳を過ぎて転職・再就職となると、正社員になるのは難しいと思われます。(76ページ「イ 「正規の職員・従業員」の割合が男女共に低下」参照)つまり、高齢者の人口割合が増えて、かつその世代が引退ではなく雇用されて働くようになると、非正規率は上がることになります。

これから高齢化社会になって、しかも定年退職者の再雇用が企業に義務づけられるわけですから、今後も非正規率は増えることはあっても減ることはないのではと考えます。

本統計で私が興味深いと思ったのは、6ページの「表I-4 年齢階級,従業上の地位別有業者数及び割合-平成19年,24年」です。この5年間に自営業者の人数は約76万人、会社などの役員が54万人減っています。別の統計になりますが、平成3年以降は企業の数は減少傾向です。人を雇う側が減っているわけです。これでは正社員が増えるのは難しいのではと思います。

いま必要なのは、派遣を禁止するとか3年後に正社員にすることを義務づけるとかではなく、雇う側をもっと増やすような方向ではないでしょうか。

数字の塊にすぎない統計ですが、いろいろ考えながら見るとおもしろいです。あなたは何を発見するでしょうか。

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