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【Kindleショック】実は遅れて登場したクラウド本の真打ち

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私がいまさら言うまでもありませんが、キンドルは米国Amazonが販売している電子書籍デバイスです。Amazonで購入した電子書籍をキンドルにダウンロードして、読むことができます。Amazonの電子書籍は、キンドルだけでなくパソコンで読むことも可能です。キンドルとパソコンの間で本に挟んだしおりを共有できる等、デバイスを意識させないシームレスな利用法が特徴です。

キンドルが発売されたことで、米国では読書のスタイルや本の売り方に大きな変化が起きました。今年はいよいよ日本でも電子書籍が本格的に普及する年になるとされています。この本を読めば、これから日本の出版社・編集者・著者の間で起きる激震を予測することができるでしょう。

と言っても、この本をいわゆる電子書籍本だと思って手に取ると、少々期待はずれに終わるかもしれません。

タイトルこそ「Kindleショック」となっていますが、実はこのタイトルは新書にありがちな"釣り"風味と思った方がいいです。私の分類では、この本は電子書籍本ではなく、遅れて登場した最強・最後の「クラウド本」です。

著者の境氏の肩書きは、経済産業省国際戦略情報分析官(情報産業)です。日本のコンテンツ政策を担当している現役の経済官僚です。この本の価値は、キンドルやiPadが目指しているものが、クローズドなデバイスを中心とした"閉じた"インターネットであることを指摘していることです。

インターネットの誕生以来、ユーザ側のデバイスは汎用的なコンピュータでした。中でも中心になっていたのが、パソコンでした。パソコンはインターネットを取り巻く技術的な進化・変化によく対応し、広く普及しました。その一方で、著者が"万能海賊版製造機器"と呼ぶように、有料コンテンツに施されたあらゆるコピープロテクトを解除して、違法な複製を作るための装置としても使われてきました。これでは有料のコンテンツを提供する側は安心できません。

キンドルやiPadのようなデバイスの機能を提供側が好きなように制限できるデバイスと、それにコンテンツを送り込むクラウドの組み合わせが登場したことで、ようやくコンテンツ提供側が安心できる環境が整ったというのが著者の主張です。著者はこれを「デバイス=クラウド生態系」と呼んでいます。

こう書くと、提供側だけに都合がいい話のように思われるかもしれませんが、セキュリティー対策など複雑になりすぎたパソコンについて来られなくなった利用者にとっては悪い話ではありません。

著者はこれからのインターネットは従来のオープンなネットワークと、専用のデバイスとセットで提供される閉じたネットワークが共存するとしています。

パソコンやインターネットを黎明期から使っていると気づきにくいかもしれませんが、著者が言う「デジタル二重革命」が着実に進行していることがわかります。インターネットの裏側で何が起きているのかを考える一冊としてお勧めです。

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