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【書評】躍進 日本オラクル-全社最適化戦略

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私とオラクルは奇妙な縁で結ばれています。

日本オラクルは1985年に設立され、1990年に佐野社長が就任して本格的な営業を始めました。一方、私は1987年から1993年まで、アスキーでInformixのマーケティングとサポートをしていました。この時期の私にとって、Oracleは競合でした。この本に書いてあるように、1991年の時点では、日本のリレーショナルデータベース市場におけるトップはInformixで、Oracleは後発でした。もともとInformixはアスキーが自社の業務で使うために日本語化を始めて、後に外販するようになったものです。SQLをサポートする1つ前のバージョンのInfomix 3.3からの実績がありました。

日本でInformixとOracleのシェアが入れ替わったのは、1992年頃です。日本オラクルは、各業界のトップ企業に集中的に営業をかけて、その事例を新聞の一面広告に載せるなど、エンタープライズビジネスの王道と言えるやり方で伸びてきました。世界の中でも日本は最後までInformixがOracleに対抗した国ですが、やはりかないませんでした。アスキーの社風が派手でオシャレ好きで、ミッションクリティカルの地道なビジネスには向いていないことや、Informixの販売について米インフォミックスと方向性の相違があったことが、原因の一つです。

私がアスキーを離れた後の話ですが、アスキーと米インフォミックスの関係が、うまくいかなくなりました。結局、米インフォミックスの日本法人に約100名のアスキーの社員が事業部ごと移籍して、インフォミックス アスキーとなりました。さらにアスキーの資本が引き上げられて、名前がインフォミックスに変わりました。その後、米IBMの米インフォミックス買収によって、当時の同僚の中には今は日本IBMの社員になっている人がいます。

Oracleとの勝負が付いたと判断した私は、1993年にアスキーを離れました。その頃、日本オラクルは急激に拡大中で、データベースに詳しい社員を募集していました。この時に日本オラクルに転職していれば、その後の日本オラクルの株式上場で一財産できたかもしれません。

競合に転職するのは自分のポリシーに反していたので、NetWareで絶好調だったノベルに転職しました。ノベルから見た日本オラクルは、対マイクロソフト戦線の仲間でした。マイクロソフトのWindows NT+MS SQL Serverに対して、NetWare+Oracleの組み合わせで対抗したのです。当時はノベルのレイ・ノーダとオラクルのラリー・エリソンは、マイクロソフト嫌いで有名でした。あの小室哲哉のライブがあった幕張のオラクルオープンワールドに出展するなど、パートナーとして協業しました。

ノベルを辞めた後、CRMに興味を持った私が日本法人立ち上げに努力した米バンティブは、シーベルとの競争に敗れて、最後は米ピープルソフトに買収されました。その時には私はJ.D.エドワーズに移っていましたが、J.D.エドワーズもピープルソフトに買収されました。奇しくも、シーベルとピープルソフトの二社は、オラクルに買収されて今に至ります。

と言うわけで、ある時は競合、ある時はパートナー、そして私がかつて働いた会社とその競合会社を、次々と飲み込んできたのがオラクルです。

オラクルが約50の企業を買収したことで、いろいろな企業でいっしょに働いた人たちの多くは、結果的に日本オラクルに集まっています。世界は5台のコンピュータになる(グーグル、アマゾン・ドットコム、セールスフォース、マイクロソフト、ヤフー)という話がありますが、世界のソフトウェア会社も5社になるようです。オラクルがそのうちの1社であることは、間違いないでしょう。

「躍進 日本オラクル」は、リレーショナルデータベース競争に決着を付けた後の、オラクル「第二巻」について書いた最初のオラクル本です。日本オラクルの歴史を辿りながら、各部署・製品の担当者に丹念にインタビューしてまとめています。

今でも「オラクル=データベースの会社」のイメージが、あるかもしれません。実際には、日本オラクルは以前から「マネージメントエクセレンス」をキーワードに、企業に必要なソフトウェア全体を提供できる会社に変わりつつあります。ユーザ企業の情報通信システム全体を考えて、顧客の求めるソフトウェアをトータルで提供できるのはオラクルだけという位置付けです。ERPは企業に必要なアプリケーションの一つに過ぎないという見方で、SAPはオラクルの競合ではないとしています。

オラクルが50の企業を買収した意味は何なのか、日本オラクルが何を考えていてどこへ行こうとしているのかを知るには、最適の本です。ただし、あくまでもオラクル本ですので、競合他社の視点は含まれません。より広い視点で考えたい方は他の本も読んでおく必要があるでしょう。

この本の出版とほぼ同時に、米オラクルは米サン・マイクロシステムズの買収を発表しました。今までの買収と違って、初めてのハードウェアの会社の買収です。すでに第二幕の第二部に入ったのかもしれません。米オラクルは、米サン・マイクロシステムズのハードウエア事業を売却するつもりはないとWebサイトで発表しています。オラクルで働く昔の同僚がまた増えそうです。

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