「AIで仕事が増えた」は、気のせいではない──HBR、Upwork、Workday、BCG、Korn Ferry、パーソル総研の調査を並べて読み解く
「AIを入れたのに、仕事が減らない」「むしろ忙しくなった」。ここ最近、あちこちでこの声を耳にします。感覚的な愚痴なのか、それとも実態なのか。気になって、直近の主要な調査や研究を並べて読んでみました。
結論から言うと、調査の設計は違っても、「AIは個人のタスクを速くするが、組織の仕事の総量は減らない」という方向は、驚くほど一致しています。本記事では、6つの調査を整理したうえで、仕事が増える共通のメカニズムと、人事・経営にできることを、組織人事の立場から考えます。第5章の打ち手は、調査の結論ではなく、私自身の解釈です。
▫️1. 6つの調査・研究の一覧
・Harvard Business Review(2026年2月):UCバークレー・ハース校の研究者による、米国のIT企業での8か月間の観察研究
・Upwork Research Institute(2024年):経営層、正社員、フリーランス2,500人への調査
・Workday(2026年1月公表):従業員とビジネスリーダー3,200人への調査
・BCGとHarvard Business Review(2026年3月):米国のフルタイム労働者1,488人への調査
・Korn Ferry「Workforce 2026」(2026年9月8日公表):日本を含む11市場、1万6,000人超への調査
・パーソル総合研究所(2026年2月公表):日本の就業者への調査(本調査は正規雇用者3,000人)
▫️2. 6つの調査で見えたこと
【1. HBR(2026年2月):AIは仕事を「強化」する】
UCバークレー・ハース校のAruna Ranganathan氏とXingqi Maggie Ye氏は、約200人規模の米国のテクノロジー企業で、2025年4月から12月まで、現場の観察と40件超のインタビューを行いました。AIの利用は強制されていませんでしたが、AIを使う社員は、仕事のペースが上がり、担当するタスクの範囲が広がり、1日の中で仕事をする時間も延びていました。それが、頼まれてもいないのに自発的に起きていた点が重要です。
論文は、仕事が増える形を、タスクの拡大、仕事と仕事以外の境界のあいまいさ、マルチタスクの増加として整理しています。最初は生産性の向上に見えても、やがてそれが新しい標準になり、認知的な疲労や持続不可能な労働時間につながる、というのが研究者の警告です。解決策として、仕事の順序とタイミングを調整する「シーケンシング」などを提案しています。
【2. Upwork(2024年):経営層の期待と、現場の実感のギャップ】
経営層の96%が、AIで生産性が上がると期待していました。一方、AIを使う従業員の77%が、AIによって仕事が増えたと答えています。AIを使う従業員の47%は、期待される生産性向上をどう実現すればよいか分からないと回答し、40%は、会社がAIについて求めすぎだと感じていました。増えた時間の使い道は、AIが生成した内容の確認(39%)、AIツールの習得(23%)、AIのせいで増えた仕事そのもの(21%)でした。
【3. Workday(2026年1月):「AI税」と呼ばれる手戻り】
調査では、AIによって毎週1〜7時間の時間が浮いたと答えた人が85%に上りました。しかし、浮いた時間の約37%は、低品質なAIの出力を修正、確認、書き直すための手戻りに消えていると報告されています。10時間の効率化につき、約4時間が、出力の修正に失われる計算です。AIを使って、継続的に純粋なプラスの成果を得ている従業員は、14%にとどまりました。人事職が、手戻りの割合が最も高い職種だったとも報じられています(38%)。
【4. BCGとHBR(2026年3月):AIの「監督」が脳を疲れさせる】
BCGの研究者は、米国のフルタイム労働者1,488人を調べ、AIツールの過剰な利用や監督によって生じる精神的な疲労を、「AIブレインフライ」と名づけました。約7人に1人が、複数のAIツールを使いこなす中での精神的な疲労を経験したと報告しています。AIの出力を頻繁に確認する必要がある人ほど、精神的な負担、疲労、情報過多が強く、利用するAIツールが4つ以上になると、生産性が下がるとも報じられています。
【5. Korn Ferry(2026年9月8日):兼務と「超負担」】
11市場(日本を含む)の1万6,000人超が対象で、直近2年で仕事量が大幅に増えたと答えた人が62%、複数の職種の責任を兼務していると答えた人が約6割(61%)、忙しすぎて成長につながる意味のある成果を出せないと答えた人が45%でした。AIに疲れを感じている従業員の52%は、AIの導入で仕事量が増えたと回答しています。AIによる効率化を報告したCEOは約79%でしたが、一般の従業員で同様に答えたのは約半数でした。同社は、AI関連のタスクを既存の業務に足すのではなく、人が得意なこととAIが得意なことを軸に、職務そのものを再設計すべきだと提言しています。
【6. パーソル総合研究所(2026年2月):日本の実態】
2025年10月に実施された調査(スクリーニング調査は1万9,855人)で、生成AIの利用によってタスク単位の業務時間は、平均16.7%減りました。ところが、実際に業務時間全体が減ったと答えた利用者は、25.4%(4人に1人)にとどまっています。週4日以上使うヘビーユーザーほど残業時間が長い傾向もありました。浮いた時間の使い道は、61.2%が「仕事をする」と答え、その内容は日常業務や調整・連絡が中心で、改良・再設計・探索のような付加価値の高い業務には、あまり使われていませんでした。人事の専門メディアの解説では、周囲に使い方を教えたり支援したりする先駆者の負荷が、正式な業務として評価されない「シャドーワーク」になっている点も指摘されています。
▫️3. なぜ仕事は増えるのか:共通する5つのメカニズム
6つの調査を並べると、仕事が増える理由は、次の5つに整理できます。
1. 浮いた時間が、そのまま次の仕事で埋まる
HBRの観察研究、パーソル総研の「61.2%が仕事をする」という結果、Korn Ferryの「仕事は消えずに再配分される」という指摘は、同じ現象を別の角度から捉えています。個人が効率化しても、組織が業務の総量や期待水準を見直さなければ、空いた時間には新しい仕事が流れ込みます。
2. 確認と手戻りという「見えないコスト」
Workdayの「AI税」や、Upworkの「AI生成物の確認に時間を使う(39%)」は、効率化の「前半」だけを測り、「後半」の検証と修正を見落とす危険を示しています。
3. 認知負荷とツールの乱立
BCGの「ブレインフライ」は、AIを使う人が、AIの監督者という新しい役割を担わされていることを示しています。
4. 経営と現場の期待のギャップ
Upworkの「96%と77%」、Korn Ferryの「CEO約79%と従業員約半数」は、同じAIに対する認識が、立場によって大きく異なることを示しています。
5. 役割と処遇が、設計し直されていない
Korn Ferryの兼務6割、パーソル総研のシャドーワークは、責任や仕事が増えても、職務の定義、評価、報酬が更新されていない状況を示唆します。
▫️4. 日本の文脈で考える
パーソル総研の調査は、日本での実態を示す貴重なデータです。タスク単位の16.7%削減という成果と、全体の労働時間が減った人が25.4%という結果の差は、個人の努力で効率化しても、組織としての業務設計や配分が見直されていないことを示唆しています。
ここからは私の解釈です。日本では、職務の範囲が明確でない組織が多く、AIで空いた時間に仕事が追加されやすい構造があると考えます。また、周囲を支援する先駆者の活動が評価されなければ、熱心な人ほど負荷を背負い、組織の学習も属人化します。AI活用を「個人の頑張り」に任せるのではなく、組織のインフラとして設計することが欠かせません。
▫️5. 人事・経営にできること:7つの打ち手(私の解釈)
1. 浮いた時間の使い道を、意図的に設計する
浮いた時間を「余白」として確保し、探索・改善・対話・学習に再投下する方針を、あらかじめ決めます。放置すれば、日常業務に飲み込まれます。
2. 業務と役割を、AI前提で再設計する
AI関連のタスクを足すのではなく、タスクを分解し、廃止・統合・自動化・人が担う領域に整理し直します。兼務が増えているなら、役割の整理と処遇の見直しを、セットで検討します。
3. 確認と品質保証の役割分担を決める
誰が、どの水準で、AIの出力を検証するのか。ここが曖昧だと、手戻りの負荷が個人に集中します。
4. ツールとタスクを絞り、認知負荷を管理する
利用するAIツールの数を増やすことが、目的になってはいけません。必要なツールを絞り、使い方の標準を共有します。
5. 指標を、成果と負荷で設計する
利用率や削減時間だけで測れば、現場はその数字を良く見せることに最適化されます。測定値が目標になると、その測定値は良い指標として機能しなくなる、というグッドハートの法則のとおりです。成果、手戻り、負荷の指標を併せて見ます。
6. マネージャーに投資し、支援を評価に組み込む
組織のフラット化を進めるなら、残されたマネージャーの役割を再定義し、支援します。周囲に使い方を教える先駆者の活動も、評価の対象にします。制度は、組織の文化をつくります。何を評価するかが、現場の行動を決めます。
7. 経営と現場の認識のギャップを、可視化する
サーベイや対話を通じて、現場の実感を経営に届ける仕組みを作ります。悪い情報が速く上がる組織ほど、手を打つのも速くなります。
▫️6. 読む際の留意点
・6つの調査は、対象、時期、設問の定義が異なります。数値を単純に並べて比較することはできません
・多くは自己申告に基づく調査です。実際の労働時間や成果を、客観的に測ったものではありません
・HBRの研究は、約200人規模の1社を対象にした観察研究で、結果を一般化するには慎重さが必要です。著者らも、進行中の研究だとしています
・Upworkの調査は2024年のもので、現在の状況とは異なる可能性があります
・WorkdayやKorn Ferryは、AIや人事の関連サービスを提供する企業による調査です
・調査によって、効率が上がったと感じる人も多く確認されています(Korn Ferryでは6割超)。「AIは無意味」という話ではなく、「設計されていない仕事の増加」が問題だという読み方が適切です
・メディアによって、数値の表記に差が見られるものがあります。引用の際は、原典の確認をおすすめします
▫️7. 自社を点検する8つの問い
1. AIで浮いた時間の使い道を、組織として決めているか
2. 個人の効率化が、業務全体の総量の見直しにつながっているか
3. AI関連の新しいタスクを、既存の業務に「足す」だけにしていないか
4. AIの出力を、誰が、どの水準で確認するのかが決まっているか
5. 兼務が増えている社員の、役割と処遇は更新されているか
6. AI活用の指標が、利用率や削減時間だけになっていないか。手戻りや負荷も見ているか
7. 周囲を支援する先駆者の活動が、評価されているか
8. 経営の認識と、現場の実感の差を、定期的に把握しているか
▫️まとめ
「AIで仕事が増えた」という声は、気のせいではなく、複数の調査で繰り返し確認されている現象です。ただし、それはAIの欠陥ではなく、効率化を、業務設計、役割、評価、指標という「組織の設計」につなげられていないことの表れだと考えています。
AI活用の本質は、人と組織の変革にあります。ツールを入れることと、働き方を変えることは、別の仕事です。浮いた時間を、何に使い、誰が何を担い、何で評価するのか。その設計こそが、AIが「仕事を増やす」か「価値を増やす」かを分けると考えています。
参考:
Harvard Business Review「AI Doesn't Reduce Work--It Intensifies It」(2026年2月9日)
https://hbr.org/2026/02/ai-doesnt-reduce-work-it-intensifies-it
Upwork「Upwork Study Finds Employee Workloads Rising Despite Increased C-Suite Investment in Artificial Intelligence」
https://www.upwork.com/press/releases/upwork-study-finds-employee-workloads-rising-despite-increased-c-suite-investment-in-artificial-intelligence
Quartz「Workers are spending hours fixing AI mistakes」(Workday調査の報道)
https://qz.com/ai-mistakes-limit-time-savings-workday-finds
HR Dive「The hidden 'tax' of using AI: HR pros say they must often redo its output」(Workday調査の報道)
https://www.hrdive.com/news/ai-output-reduced-rework-low-quality-workday/810075/
CBS News「Is AI productivity prompting burnout? Study finds new pattern of "AI brain fry"」(BCG・HBR調査の報道)
https://www.cbsnews.com/news/is-ai-productivity-prompting-burnout-study-finds-new-pattern-of-ai-brain-fry/
Korn Ferry「Korn Ferry Workforce 2026 Report: Unlocking Growth Requires Rethinking How Work Gets Done」(2026年9月8日)
https://www.kornferry.com/about-us/press/korn-ferry-workforce-2026-report-unlocking-growth-requires-rethinking-how-work-gets-done
MONOist「生成AIで業務の時短効果が見込めるも、実際に業務時間が減少した人は約25%」(パーソル総合研究所調査の報道、2026年2月16日)
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2602/16/news024.html
人事の専門メディア「日本の人事部」掲載のパーソル総合研究所調査の解説
https://jinjibu.jp/article/detl/hr-survey/4061/