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松尾研究所のHR責任者に学ぶ「人を増やさない組織設計」──人事制度は「なくす」のか「整える」のか

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2026年9月28日、HRproの連載「人事リレーの輪ジャーニー」の第1回が公開されました。登場したのは、松尾研究所でHR責任者を務める開原沙文さん。聞き手はポラス株式会社の石田茂さんです(会員限定記事)。

AI時代の組織と人事のあり方を考えるうえで、多くの示唆が詰まった内容でした。本記事では、インタビューの要点を整理したうえで、人事コンサルタントの立場から共感した点と、違和感を覚えた点をまとめます。

◾️インタビューの要点

松尾研究所は、東京大学の松尾・岩澤研究室とは別組織で、研究成果の社会実装を進めるために2020年に設立された企業です。基礎研究、講義、共同研究、インキュベーションが相互につながるエコシステムを、研究室と役割分担しながら形成していると語られています。

記事の主な論点は次のとおりです。

・毎年1.4倍の成長を当たり前にすることを、全社の共通言語にしている。活動ごとに、論文数、受講者数、売上、起業数といった指標を置いている
・組織拡大に合わせて人事制度を見直したところ、制度が「普通」になっていく汎化が起きた。そこで経営メンバーと組織の方向性を話し合い、「人を増やすことは成長につながるのか」という問いに行き着いた
・AIの進化で仕事そのものが変わり始めており、人数を増やす前提で組織を設計する必要はないのではないか。重要なのは「何人採るか」ではなく「誰と働くか」
・人事制度は本来なくてもよく、経営戦略を実現する手段にすぎない。全社一律ではなく、人事はガードレールだけを引き、部門ごとに設計してもらう。今回作った制度も「バージョン0.0」で、更新し続ける前提
・採用は苦戦しており、最初から雇用を前提にせず、業務委託のプラットフォームで接点を作る考え方に変えている
・これからの人事は「つなぎ役」。ただし、人事自身に意思がなければ単なる伝達役になる

◾️共感した点

1. 人数を前提にしない組織設計
AIによって、人が担うことを前提にしていた仕事そのものが変わり始めています。にもかかわらず、多くの企業では「事業を伸ばすなら人を増やす」という前提が、いまも当然のように置かれています。この前提から問い直した点は、AI時代の組織設計として非常に重要だと感じます。

2. 制度を「完成形」にしない姿勢
制度を「バージョン0.0」と呼び、事業が変われば必要な制度も変わるので、固定するほうがリスクだと捉えている点に共感します。人事制度は一度作って終わりではなく、更新を前提に運用するもの。この発想は、変化の速い時代には欠かせません。

3. 自前で決め、一次情報とデータで経営と議論する
外部の知見は活用しつつも、何を作るかは自分たちで決める。他社制度の持ち込みでは機能しない、という指摘は、実務の実感とも一致します。

◾️違和感を覚えた点

一方で、いくつか立ち止まって考えたい点もありました。

1. 「制度はなくてもいい」は、組織のフェーズに依存する話ではないか
「極端に言えば」という前置きつきではありますが、高い熱量を持つ人が集まる小さな組織であれば、制度は最小限でも回ります。しかし、規模が拡大し、多様な人材や外部パートナーが増えるほど、制度の不在は暗黙のルールや属人的な判断に置き換わりやすくなります。

制度には、人を型にはめる側面だけでなく、評価や配置の透明性を守り、一人ひとりの自由度を担保する側面があります。「整えるほど普通になる」のは、制度そのものの問題ではなく、全社一律の平等を目的に設計した場合の話ではないでしょうか。

2. 「1.4倍」は何を測る物差しか
「何のための1.4倍か」を問う姿勢は良いと思います。ただ、人は普通に生きても1.2倍成長する、という前提の根拠は、記事では語られていません。また、論文数、受講者数、売上、起業数といった活動指標が、個人の成長や納得感とどうつながるのかも見えにくい点です。成長の物差しが強い組織ほど、走り続けられる人とそうでない人を分けてしまうリスクとは隣り合わせです。

3. 人事の価値を「つなぎ役」だけで語ってよいか
経営と現場の翻訳、人と人を結ぶ役割には賛成です。開原さん自身も、人事に意思がなければ単なる伝達役になると指摘しています。

私は、ここにAI時代の人事に固有の役割を加えたいと考えています。仕事をタスクに分解し、AIと人の役割分担を再設計すること。そのうえで、必要なスキルや人員計画、評価・報酬のあり方を、データをもとに経営へ提案すること。共感や楽しさは大切ですが、それだけでは人事の存在意義への答えとして足りないと思います。

◾️AI時代の人事制度設計で問われること

この記事から私が受け取った論点は、「制度をなくすか、整えるか」の二択ではなく、「何を自由にし、何を守るのか」の設計です。実務では、次の観点が手がかりになります。

・自由にする領域と守る領域を分ける。役割の持ち方や働き方は柔軟にし、公平性、安全、コンプライアンス、説明責任は最低限のガードレールとして守る
・制度を更新前提で設計する。見直しの頻度と、見直しの判断に使うデータをあらかじめ決めておく
・人員計画を「人数」ではなく「タスクとスキル」で考える。AIで置き換わる部分と、人が担う部分を見極める
・人事自身の意思を持つ。経営と現場の間で、何に憤り、何を変えたいのかを言語化する

◾️まとめ

人を増やさない組織設計は、AI時代の重要な論点です。ただしそれは、人が要らなくなるという話ではなく、人が担う役割と、それを支える仕組みを設計し直すという話だと考えています。

AI活用の本質は、人と組織の変革にあります。制度の「余白」とガードレールをどう設計するか。松尾研究所の事例は、その問いを改めて突きつけてくれました。

出典:HRpro「人を増やすことが成長につながるのか、人事制度を整えることに終始していないか ――第1回:松尾研究所 開原 沙文氏」(2026年9月28日公開、会員限定)
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=4809

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