ナマーレバリングサービス廃止について(いまさら)考えてみる
生レバーが規制されてしばらく経ちました。最近では生レバーでO157患者が出たと疑われる事例もあったようです(もっとも本当にレバーのせいかどうかはどうか不明なので取り扱いを慎重にしたいところではありますが)
かなり時機を逸した感もありますが、いまだに僕の周りでも誤解をしている人も多そうなので、僕の調べた範囲でわかったことと考えたことをざっくりまとめておきます。この問題はマスコミによる報道がどうも誤解を招く内容が多かったのが気になっていて、それで消費者側がむやみに反感を抱かされている感が強いと思うんですよね。僕自身は規制やむなしと思っていますが、出ている情報をすべて受け止めた上で「リスクが十分低いから、規制はやり過ぎである」という意見であれば、あり得るんじゃないかなと思っています。ただし、誤解を元にした意見では意味がないわけで、そこは正しい知識を得た上で判断したいところです。素人が調べただけなので誤解によるところも多いかもしれません。間違っていたらぜひ教えてください。
まずなぜ規制されたのか。調査で、生レバーの中からO157が見つかったからです。ここでポイントとしては
1. 新鮮さは関係ない(生体の牛の内臓からも見つかっている)
2. 表面ではなく中から見つかった
3. O157は感染症である
ではないかとおもいます。1はよく誤解されているのを見ます。生きている牛の内臓から見つかっているので、新鮮な肉だから安心ということはありません。また、レバーの感染リスクとしてはO157だけではなくカンピロバクターがあがりますが、カンピロバクターでは新鮮な菌の方が感染力が強いという話もあります(ただ、これは定量的にどれくらいなのかがよくわからない)。もっともカンピロバクターでは死に至ることはないので(ギランバレー症候群のリスクはありますがそれはかなり小さいと感じます)そのリスクをどうとるかという判断はあるなと思います。
2.は、生レバー規制の前にユッケの問題があったのでそれと混同している意見をたまに見ます。ユッケは表面を加熱すればよいという判断になったかと思いますが、生レバーは内部に菌が見つかっているので全体を加熱しないとだめです。ちなみに今回の規制はユッケの事件のせいではなかったと記憶しています(O157の検出はユッケ事件の前だったかと。事件で規制が早まった可能性はあるかもしれませんが)
3.も誤解があって、生レバーは自己責任で食えばいい、という意見がありますが、感染症である以上は本人だけの問題ではないです。これは公衆衛生の問題なのです。つまり自己責任ではカバーしきれません(完全に隔離した場所で、生レバーを食べ、その後の感染の有無まで確認できるような施設があれば自己責任にできるかもしれませんが)
また、ひとつ上のレイヤーからよくある反論として、牡蠣や生卵、餅など、ほかにリスクのある規制されていない食品があるのに、レバーを規制したことがおかしいと批判されることがあります。これは一理ある部分もあるなとは思うのですが、今回の規制にはそれなりに理路はあるのかなと思っています(厚生省が理由を語ったわけではないので推測ですが)。たとえば、牡蠣や生卵では、感染を避けるために店側が対処できる方法がすでに確立されています。牡蠣は生食用とそうでないものがはっきり分けられていますし、清浄海域を指定することによりリスクを低減しているようです(ただノロに関しては規制が弱い気もしなくはないですが識者の見解を聞きたいところです)。生卵新鮮さと関係があるのでこれもリスクを下げられます。いっぽうで、今回の生レバーは新鮮さと関係なく一定確率でO157を引いてしまうといういわばロシアンルーレット状態になっている点が大きく違います。ふぐを引き合いに出す反論も見ましたが、ふぐは無毒の部位がはっきりしていますが生レバーは誰が見てもそれが無害かどうか判断できない点で違いますし、免許制にすればいいという意見も意味がありません。餅との比較は微妙なラインではありますが、餅のリスクが、餅そのものというよりは、食べ方よるもので、これは食べる側が判断してリスクを低減させうることなので、規制に至っていないと考えることができる気がします(もっとも、僕自身生野菜のO157感染リスクとの整合性は気になっていますが)
難しいところですが、「飲食店が食べ物を出したときにそのリスクが十分低いことを保証できる範囲を決めること」と「目の前に出された食べ物を食べたときにそれが害をなすリスクをはかること」というのは立場が違うんじゃないかと思います。われわれ食べる側からすると、後者のリスクを考えますが、規制という視点でいえば前者でとどめるしかないわけで、そのあたりが我々の感覚と多少乖離しているんじゃないかなと思います。われわれの食べるものはその食品そのものが潜在的に持つリスク以上のものが乗っています。ふぐの調理した料理人がミスをする可能性もあるでしょう、それを提供する店員が感染症になっていて咳でそれが食品に移行することもあり得ます、極端なことをいえば誰かが毒を盛るリスクだってあるわけです。ただ、それは食品そのものを規制しても仕方ないリスクです。「規制」というところに落とす上では、というのは「食品そのものにリスクがあってそれがコントロールできるかどうか」の視点で決まっているのではないかと思います。
最初に書きましたが、それであっても「生レバーにはたしかにO157が発見されたが、実際死に至るケースはこれまでほぼゼロであるから、リスクがあったとしてそれはほかのリスクに埋もれてしまうと判断できる。したがって一律禁止規制はおかしい」という考えもありかとは思います。ただ、現在も「リスクを回避できる方法が見つかるまで」という条件もあるわけで、実際に消費者団体の中では放射線照射の検討を進めているところもあるようです(殺菌よりも風味の問題が大きそうな印象を持っていますが)から、それを期待したいところです。
それから最後にこの問題だけの話ではないのですが、自分が食べないからといって規制に賛成する、あるいは自分が好きだからといって規制に反対する、というのはちょっと危ういなと思っていて、自分が興味のないものの規制を許すことは他人が興味がなくかつ自分が興味があるものを規制されたときにブーメランになるだけですよね。僕自身は生レバーは嫌いではない(というかけっこう好きです)のですが、今回はいろいろ調べて仕方ないかなあと思ってはいるものの、提供禁止というのはかなり強い規制ですから、できるだけ避けてほしい気持ちはよくわかります。文化の破壊は極力避けるよう努力すべきという視点もあっていいと思っています。生食文化は日が浅いという批判もありますが、文化というのは時間の長さの問題ではなく、実際にそれを文化と感じている人がいることを完全に無視して、規制されてもいいことの補強にするのはどうかと思っています(結局、そこはさておいてリスク評価をするしかないのかな、とは思いますが難しい問題ですね)
こんな時機を逸した記事を寝かせている間に、今度はウナギの問題ができてて頭を抱えているところです。では。