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定番表現から旬の話題まで、現役TOEIC講師がミニレッスン

プロセススキルは奥が深いです。

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外資系企業の人と話をするのは、ちょっとした異文化コミュニケーション。日本企業の人事評価制度について話をすると、必ずといって通じないのが「プロセススキル」という言葉です。

当社グループをはじめ、成果主義を導入した日本のメーカーの中には、数値目標の評価と同時に「プロセススキル」の評価を行っている企業がたくさんあります。「数値目標だけだと短期で出る成果しか図れないし、数字が行かないことだってあるでしょ? だから、長期的目標に途中まで取り組んだとか、仕事のやり方を改善したとか、数字に見えないところで、ある意味救済してもらうの」と説明すると、皆さん「ありえない!」という反応。数字が出ていなければ、仕事のやり方が間違っていたということだし、長期的目標に取り組むのなら、中間成果をここまで出すという目標を、数値として立てておくんじゃないの、と。今回は、このプロセススキルについてお話したいと思います。

プロセススキルを教科書的に説明すると、摺り合わせ型製品を造っているメーカーなどで、さまざまな技術・要素を統合してものづくりを行うにあたって、組織を束ねるプロジェクトマネージャーにとって必要な能力です。顧客やプロジェクトメンバーの視点に立った問題意識を持ち、目先の売上目標ばかりではなく、長期的な利益を考えて行動することを言います。具体的には、メンバーの育成、組織での問題解決、長期的な目標の設定とメンバーへの共有などが仕事になります。

当社で研修事業を行っている日本型プロジェクトマネジメント(P2M)では、グリーンエリアという概念を学習します。組織の中には、集団の目的、業務遂行の内容を共有する部分があって、やる必要があることは、組織の誰かが自発的に実行するというものです。誰かに責任が張り付いているわけではないのに、プロセススキルに優れたプロジェクトリーダーのもとでは、グリーンエリアからどんどん成果が生み出されることもあるわけです。

このプロセススキルを左右するのは、メンバーの自発性を引き出す力、つまり聞く力だったり共感する力などや、一人ひとりの立場や性格パターンに合わせた会話をする、人間関係力とでも言える能力です。最近読んだ雑誌で、これをよく説明しているなあ、と思ったのは、今月の『日経ウーマン5月号』の特集「ビジネストークの基本から相手別対処法まで 言いたいことをきちんと伝える 『話す×聴く』技術!」という記事でした。

上司が男性だったら、女性だったら、また、「オレさま上司」など上司の性格別によい会話例・悪い会話例が載っていたり、正社員-契約社員-派遣社員それぞれの気持ちの分析、後輩や部下に注意をするときのOKワードとNGワードなど、ここまでやるかというくらい、立場別、性格別の場合分けがされているのです。「でも」という言葉や自分の意見をグッとこらえて聞いたことで、自分の仕事のやり方が変わってきた、という体験談もたくさんあり、とても納得がいきました。

そういう私は、プロセススキルは全く得意ではありません。以前はベンチャー企業に勤めていたので、たとえ新入社員であっても、自分でやったことは自分の成果。人と協力する時は責任分担をきちんと決めて。みんなが自分の仕事のやり方を自己主張し、一番効率が良いと説得できた、まあ一番声の大きい人の意見が通るといった具合でした。

あるとき、前からのクセで、自分の文書の書き方がお客様にとって一番分かりやすいはずだ、と自己主張してしまいました。そのとき先輩社員から教えられたのは、「そのやり方でもいいけど、他の人のやり方を1回、よく聞いてみてほしい。自分のやり方が完璧で、人の力なんて借りないと思っているうちは、人なんか育てられない!」ということでした。大きな組織になればなるほど、サッカーの中田選手型のリーダーより、WBCに出たときのイチローのリーダーシップを見習ったほうがいいと、アドバイスを受けました。しかも、その時の口調は、チームに溶け込めない選手を叱っているときのようなスポ根ぶりだったのでした。

その一件から、「プロセススキル=スポ根?」と思っているこの頃。時には感情を出して、人を引っ張っていくことも日本型のプロジェクトマネージャーとしては必要なわけで。数字に出ない成果とか、グリーンエリアの力を信じてみたいなと思います。プロセススキルは、なかなか奥が深いですよ。

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