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【追憶篇】永平寺4日間修行体験・第壱話

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第壱話「鳴らない、電話」


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大学2年の時、私は一時的ではあるがアメリカに一人で滞在した。
そして、自分の日本文化に対する無知ぶりを嫌というほど思い知った。

例えば「禅」。私は禅について何も知らなかった。日本フリークの外国人にとって、日本人である私が禅について知らないというのは驚きだったようだ。禅に限らず、ありとあらゆる日本文化のことを全く説明することが出来なかった。
私は大変恥ずかしい思いをした。

元々日本文化には興味があったが、私は海外生活によってより日本文化を体験したいと思った。
(そうだ、禅修行を経験してみよう)
どうせなら厳しそうなイメージのあった曹洞宗を選んだ。そして挑戦するなら、大本山「永平寺」に行こうと思った。
インターネットで調べてみると、3泊4日の参禅修行体験が出来るということがわかった。大学生は8000円で参加できる模様。これは安い。さっそく電話して予約すると、1週間後に参加日程が送られてきた。

準備は整った。

大学の学食で私は次のように言った。
「俺、永平寺に行こうと思う。」
遊び仲間たちは唖然とした。そして一同、こう言った。「何かあったの?」

近しい仲間を誘ったが、誰一人行こうという者はいなかった。

(ならば一人でいくしかあるまい)
ということで、新幹線で米原に行き、そこから「特急しらさぎ」で福井へ。
福井は、東北出身者にとってはあまり馴染みのない地方である。

福井駅から永平寺行きのバスが運行していた。バスの中は観光客でいっぱいだ。

席に座り、周りを見渡すと大学生らしき人が数名。「修行される方ですか?」と聞くと、一人が「はい、そうです。」と答えた。
(同朋発見。)
バスに乗りながら、「ああ、バトルロワイヤルっぽいなあ」とくだらないことを考えていた。死ぬことはないのだろうが、修行後はどんな心境になっているのだろうか。
バスは永平寺の山を登っていた。

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永平寺に到着すると、我々「修行組」は観光客と別れてロビーへ。イメージしていた寺とは異なり、旅館のフロントのような内装。
手続きを終えると、集合時刻までしばし待機。修行者と思しき人々も徐々に集まってきた。

修行中「一蓮托生」、もとい一緒に修行するメンバーは、私を含めた大学生の男女6名と、中年女性4名、中年男性4名、60代男性2名、そしてアメリカ人1名、イスラエル人1名という面白い構成。

アメリカ人は日本語が話せたが、イスラエル人は話せないらしく、英語担当の雲水(修行僧のこと。参禅修行者の指導を担当する。指導担当の雲水は数人居た)が英語で説明していた。


参禅メンバーは一同、修行する舞台となる建物(地上4階、地下1階)に連れて行かれる。控室があるのは4階、風呂は地下にある。旅館1棟ほどの大きな建物だ。

参禅者控室は、男女別に2つの部屋(1部屋20畳くらい?)が割り当てられた。この控室では、着替えや就寝、禅の間の休憩をするために使う。見渡すと、公民館の畳の部屋のようなイメージ。長テーブルも公民館のものと同じ。茶碗と急須が人数分あり、茶筒もある。

その時はじめてわかったのだが、数日間はその建物の中からは出られないらしい。
ということは、コンビニに行くことができない。
食事は覚悟していたが、飲み物がお茶だけというのはつらい。私は煙草を吸わないが、喫煙者は禁断症状になることだろう。さすが「修行」というだけあって厳しい。

おまけに携帯電話やお金などの貴重品が没収される。
完全に隔離されてしまった。

この世に生を受けて以来、ずっと情報化社会の中を生きてきた。
情報を完全に遮断されたのは、これがおそらく初めて。
控室から見える風景は、パソコンの壁紙にありがちな山の風景。
聞こえるのは、川のせせらぎだけだ。


控室の向かい側に、坐禅をする部屋(60畳程度)があった。坐禅するときは、この部屋で行う。地面から50cmくらい高い所に半畳くらいのスペースが個別に設けられており、座布団が置いてある。それが数十人分並んでいるイメージだ。この1人分のスペースのことを「単(ひとえ)」と言うらしい。

私の単は窓側にあった。窓と言っても、障子で閉ざされている。少し窓が開いており、そこから永平寺を流れる川を見ることができた。面白いことに、この坐禅部屋は「冷暖房完備」である。意外と近代的なのである。


14時くらいから、作法などの説明を受ける。食事、マナーなどが厳格に決まっている。ちょっとでも違うことをすると、「もう一度」と言われてしまう。練習時間内にマスターすることなく、食事の時間が近づく。

17時から実際の食事(正確には薬石という)。早くも作法を間違える。一人の間違いは全員の間違い。全員が作法通りに進まないと、先に進めない。結局、全員の食事が終わるまで1時間半くらいかかった。

食事の後、風呂に行き、その後坐禅。1ターム40分くらい。それを何回かやって、21時就寝。

控室には、テレビもない、ラジオもない、携帯電話もない。
これがキャンプだったらUNOなどのゲームをして遊ぶところだが、今回は何もかも没収されてしまっている。何もすることがない。

次の日の起床は3時30分。
初日にして早くも後悔。どんな4日間になるのか、この時は全く見当がつかなかった。
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