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Fastlyの障害に学ぶインフラ屋の真価が知れる時

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6月8日の夜に起こったインターネットの障害。世界中の多くの人に影響が及びました。私自身はAmazonのECサイトで表示が崩れて、なにかブラウザのキャッシュファイルに問題が置きたのかぐらいに感じていました。そういった身近なトラブルの原因が知名度がそれほど高くなく、私も社名を知らなかったCDN(Content Delivery Network)企業 Fastlyの障害によるものというのは驚きでした。

CDNは知っていてもその代表的企業はAkamaiやCloudflareであり、Amazonなどのクラウド企業もサービスを提供している程度の知識だったからです。調べてみると、Akamaiがコンビニように身近な便利を提供するようにポイント オブ プレゼンス (POP) を多数持つのに対し、Fastlyは卸売会社や物流センターのような、数を絞った巨大POPを世界中の拠点に置き、そのぶんキャッシュヒット率が上がって効率的なデータの提供に役立っているということがわかりました。Akamai と Fastly の事例を聞くために「CDN Study」に参加した

スポークとハブモデルの、ハブおよび、基幹ネットワークをFastlyが担っており、物流センターのようにトラフィック経路として太いため、キャッシュデータの「在庫先」として大きな役割を果たしているようです。そして、「32台のキャッシュサーバが,それぞれルータも兼ねている、ルータレスルーティング」とか「SSDの特性を生かしたCDN 専用の独自ファイルシステムを開発している」とか、特定のキーが付いた複数のキャッシュを一括でパージできることで、「Fastlyは CDN ではなく分散 KVSとして働いている」など、これはもう、インターネットのコンテナ船ネットワークかもしれないと大いに感心しました。

インフラ屋の真価はトラブルで知られ、無事これ名馬では知られないという自己矛盾

1996年頃、私が、分散システム集中管理ツールの、Microsoft Systems Management Server(Microsoft SMS)のプロダクトマーケティングを担当していた頃。インターネットが台頭して、ソフトウェア配布もインターネット経由でできるかもという話を技術部門の部長にしたことがあります。クライアントサーバーの時代であり、CDNも当然未発達であり、「そんなもの無理やろ、ネットワークが持たない」という話で終わりでした。Microsoft SMSは、クラサバの時代にソフトウェアをデプロイできるがウリで、当時各営業店舗のシステムにクライアントモジュールを夜間配布 とかいう理想形を語っていました。しかしながら、ネットワークのWANはINS 64でCPUはIntel Pentium だし、ストレージはハードディスクでRAID 5でCompaqの速いサーバーとか言っても今の基準からするとその目的には非力すぎるというか、物理的に無理だろうというギャップがありました。そうはいっても、各アプリにPackage Definition Fileインストールのためのファイルを入れてもらうなど多くのソフトが対応しており、さすがマイクロソフトと思わされました。内容的にはテキストファイルなんですが、拡張子はPDFでした。

ともかく、期待を集めたMS SMSはよく売れたのですが、その結果、雑誌、日経コンピュータの動かないコンピュータに書かれるなどということにも繋がりました。その後、何度か中断しつつ、システムインフラとかモニタリングとかのマーケティングの仕事を25年後の今もやっているなどということは全く想像がつかなかった頃の話です。

時は流れ、AkamaiとかCDNが広がり、一般ユーザーの名にCloudflareが触れることも増えた2021年の今に、自分が知らない会社が世界のインターネットのバックボーンを支えていたというのは非常に驚きです。ともあれ、インフラエンジニアの真価はトラブルでしか知られず、無事これ名馬は無名のママという矛盾も感じたところです。

困ったときの水のトラブルを解決する人や会社は宣伝が行き届いているわけですが、水道をはじめ多くのインフラを支えている人は自分の知らない会社で働いているだろう、そんな想像を掻き立てられました。Delivery Heroというフードデリバリーの会社があることは知っていたのですが、インフラの仕事や自分にサービスを届けてくれる会社はまだまだあるのだと思わされます。

自分が知らないヒーローに感謝しつつ、その思いも至らないような世界があると尊敬を持たねばならないと改めて考えさせられたトラブルでした。
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