コロナ死滅LEDという「横流し記事」で願う批評報道への変化
取材をしないで書く「こたつ記事」を問題にするテレビ番組が話題になりました。しかし、日本の記事には、こたつ記事以上に問題が多い記事であふれています。足を運ぶけど頭を使わない「ゲソ記事」という指摘もあります。それに似たパターンで、企業のプレスリリースとか発表をそのまま載せる「横流し記事」もよくある問題です。
「新型コロナウイルスを死滅」高出力のLED、徳島の企業が開発
2021/01/17 09:40 読売新聞
同社によると、徳島大の野間口雅子教授(ウイルス学)らと共同で行った実験で、深紫外線と呼ばれる光を30秒照射したところ、99・99%のウイルスが不活化したことを確認した。
とあります。これは画期的なことのように読めますが、プレスリリースにあるように高出力の 280 nmの紫外線を照射した結果であり、従来の常識から言ってとても当たり前の既知の情報です。高出力の紫外線 280 nm というUV-CとUV-Bの境目の波長を照射したらウィルスは不活性化するものであり、そのLEDでも再現しても、「当社開発の自動車で人体の衝突実験をしたら殺傷能力がありました」ぐらいの話に過ぎません。当然の結果です。
この記事は、日亜化学工業株式会社のプレスリリースを元にして書かれているようです。
プレスリリースを読むと本当に目新しいというか意義があることは、そこではないことが分かります。
光出力 : 280nm品は70mW、265nm品は35mWであり、280nm品の光出力は2倍(200%)(光出力は約2Wの電流投入時の出力)【図3】
殺菌パワーは、280nm品が265nm品に比べ約1.3倍(127%)に高くなります。【図4】
また、当社では推定寿命を280nm品が約2万時間、265nm品が約2千時間と見込んでおり、280nm品の寿命は約10倍となります。
これまで、殺菌用の紫外線ライトは、一番効果があるとされる、265 nm波長で照射されてきたが、より高い光出力を出せる 日亜の280 nm LEDの方がより殺菌力があり、また10倍の寿命があると推定していて実用性が高いというのがポイントのようです。
記事にも、プレスリリースにも無い一番のポイント:人体に照射したら有害である点
読売新聞の記事では
近くでかざすだけで、コロナウイルスを除去でき、アルコール消毒ができない場所などで役立つという。
とありますが、肝心なポイントが抜けています。280 nmの紫外線は人体にも有害なので、手や皮膚に照射できないし、室内灯のような場所で空間除菌てきなことにも使えません。また、新型コロナは、接触感染は実は少なくて、広義の飛沫感染(含むエアロゾル感染)が主因とされます。誰かが触ったところを触って感染が時々報道されますが、都営地下鉄での蛇口由来の集団感染報道も、多くの専門家は考えにくいと否定しています。
モノの表面をアルコール消毒する行為自体が無意味で、手洗いもほどほどにで十分であり、コロナ対策としてこの用途はあまり意味がない可能性が高いと私は推定しています。
市販のHEPA空気清浄機は、新型コロナ対策になるという情報が抜けている
別の問題もあります。一般に市販されているHEPA空気清浄機自体、実はCOVID-19 ウィルス対策になるという情報が欠けている点です。プレスリリースでは空気清浄機への応用を書かれていますが、空調装置に組み込むタイプのUVGIと呼ばれる装置への応用への期待でしょう。
「横流し記事」が広まる時代に求められる、批評的報道
かつては、こういう「横流し記事」はそれほど広まりませんでした。マスコミ自体が、プレスリリースを横流しした記事の危険性を知り、ベタ記事 てきな扱いで小さく報道していたからです。大きく扱う記事には、第三者的な専門家の意見も聞いて慎重に取り扱っています。しかし、ソーシャルメディアが見出しのセンセーショナルな点を広い拡散する時代になっています。
こういう、企業による宣伝が横流しされやすい時代にあわせて、日本でも批評的な報道が増える必要性があるでしょう。読売新聞が拾って広まった記事を他のメディアが吟味して妥当性を批評するような、洞察を含む報道が望まれます。私のようなブロッガーが書いても拡散には限界があるからです。
立派な報道部門を持つと自負するテレビ局や新聞社は、下世話なワイドショーや週刊誌部門を持ち、デマまがいの情報を垂れ流しています。業界他社の報道やワイドショーは批評をしないのが日本の大手マスコミの姿勢で、それは下手に問題視すると逆襲を受けてやぶ蛇になるということもあるでしょう。しかし、様々なプロパガンダや情報があふれるなかで、足を運ぶだけで洞察がない「ゲソ記事」や「横流し記事」ばかりではマスコミはますます信頼を失うそう危惧しています。
米 New York Timesがオンラインでの有償講読者を大きく増やしてデジタル・トランスフォーメーションに成功したのも、批評的な深い報道が多くて、金銭を払う価値を感じたからではないでしょうか?テレビや新聞という媒体の価値が相対的になる今こそ、批評的な記事へのシフトに期待しています。