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長崎新幹線、佐賀空港ルートが論外な5つの理由

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西日本新聞に「ルート再考も視野に 長崎新幹線問題 JR九州初代社長・石井幸孝氏」という記事が出て一部で人気です。

FireShot Capture 290 - 石井幸孝氏が提唱している長崎新幹線の佐賀空港経由ルートなど交_ - https___www.nishinippon.co.jp_image_138500_.png

この案は、


佐賀空港ハブ化が鍵

と石井氏が書かれているように、佐賀空港が「ハブ空港」なるあちこちに路線が就航する人気空港となることが前提です。しかし、そんな、大都市から遠くても新幹線で結べば路線と人が集まる人気空港になるなんてことがあるんでしょうか?また、その石井案を支持する記事を福岡大学経済学部教授 木下敏之氏が書かれているのですが、その妥当性はあるのでしょうか?5つのポイントで論考してみました。

  • #1 佐賀県の負担はかえって増える可能性が高い
    「新武雄―肥前山口間は14㎞ですので、佐賀県が負担すべき距離が51㎞から合計36㎞と約30%も減ることとなります。」と木下氏は主張されていますが、筑後川の河口の2度超え軟弱地盤に新幹線の線路を引くわけで佐賀県区間に限ってもかえって費用は増える可能性が大です。2つの橋で1000億円はゆうに越える工費がかかるでしょうが佐賀空港の空路に近いのでケーソン工法のトンネルとか特殊な工事が必要かもしれません。軟弱地盤に重い線路を通す維持費を考えると佐賀県としてもコストアップでしょう。
  • #2 福岡空港をさしおいて佐賀空港に福岡から新幹線でわざわざ来ない。
    都心からの近さで人を集める福岡空港は、第2滑走路の供用開始も2025年と近くより巨大化することが計画されています。そういう福岡空港を差し置いて佐賀空港が「ハブ化」して新幹線で乗りに来るというのは夢想でしかありません。首都圏の茨城空港のように中国からのツアー客や駐車場無料を魅力に感じる人があつまるLCC路線での経営が必要です。新幹線という投資をして元がとれる計算が成り立ちません。
  • #3 佐賀県にとって佐賀空港関連で必要な投資はバイパスもしくは高速道路
    佐賀県の予算は佐賀県民にメリットがある形で使うという原則からして、佐賀空港関連の投資は佐賀駅付近からの道路整備に使われるべきでしょう。道が狭くてアクセスに時間がかかる現状は利便性を損なっています。柳川からの新幹線とかいう佐賀県民にとってメリットがない投資でなく、道路アクセスの向上が必要です。石井幸孝氏は、新交通システムを作ると地図に書かれてますが、自覚されているように佐賀市都心からのアクセスに、新幹線は何のメリットもありません。武雄温泉と佐賀空港の間に新幹線の駅ができるほどの距離はありませんが、武雄温泉からだと大村空港の方が近いわけでわざわざ佐賀空港を通る新幹線の恩恵を佐賀県民は受けない、非常にナンセンスな案だといえるでしょう。
  • #4 福岡県にとって佐賀空港ルートの整備新幹線に地元負担のメリットがほとんどない
    「柳川の観光振興」と書かれていますが、柳川に駅を作るにはかなり近すぎますし、佐賀空港から福岡に行った観光客が柳川で多数途中下車とかいうことは考えにくいでしょう。そして、福岡空港が第2滑走路ができてもあふれるなら受け皿に使いたいのは北九州空港です。こちらは深夜便もすでに飛んでますし、大都市北九州市も控えています。柳川市街地に新幹線を通して駅を作るという相当な投資をして柳川市民が日常の足に使うのは西鉄という状況は変わらないわけで、どうせ投資するなら北九州空港とかもっと他に使いたいでしょう。
  • #5 そもそも「ハブ空港」という概念が時代遅れで、佐賀空港がハブ化する可能性はゼロ
    「福岡県にも九州にもハブ空港がないという問題」と木下さんは認識されています。 https://ameblo.jp/toshiyuki-kinoshita/entry-12538550678.html しかし、郊外の巨大空港があれば路線と人が集まりハブ化するという考え事態が時代遅れです。今は需要がある都市同士を中型機でピンポイントで結ぶ時代になっています。九州から北米やヨーロッパへの定期路線を維持できるポテンシャルがあるのは福岡空港であり、計画もない佐賀空港の第2滑走路でハブ化をあてにして新幹線ができたら需要を引っ張れるという構想は実現性を欠くものでしょう。「ハブ空港」という特殊な存在はなく、大都市近郊の利便性が高い空港に人はあつまり、郊外空港はLCCで生き残るというのが今の状況です。

以上、5つのポイントで、長崎新幹線、佐賀空港ルートの問題を論じてきました。実のところ、「新幹線が空港に乗り入れたら便利だろう」という直観はわかりますが、全く実現していません。その答えは、JR九州初代社長の石井氏の記事にあります。

そもそも新幹線は、路線距離300~700キロの区間を2~3時間で結ぶのが最も得意な乗り物だ。それも沿線の人口密度がある程度高いことが必須条件である。長崎新幹線を含め、路線距離が100キロ程度の横断線は単体では成り立たない。

新幹線が得意なのは、東京~名古屋~大阪 のような飛行機で行くには「近すぎる」距離を高速鉄道で結び、人口密度が高い沿線の需要にも応える路線です。一方、空港アクセスに新幹線を使うとなると、その性能が活きません。成田空港へ、スカイライナーで日暮里から36分で行ける今、成田アクセスの新幹線があっても過剰投資だったろうといえるように空港アクセスに新幹線というのは相性があまりよくないのです。

石井氏は、「活路は物流」とも書かれていますが、現状新幹線は物流としてはほとんど寄与していません。
>新幹線物流が実現すれば、佐賀空港付近には物流団地や工業団地も造れよう。有明海沿岸道路を介して九州自動車道、長崎・大分自動車道ともつながる。
とか新幹線と関係が薄いことも書かれています。物流は自動車がメインの時代の今、新幹線に投資せずに、有明海湾岸道路への道路整備をすればいいだけの話です。石井氏の脳裏には、かつて構想されて準備も一部されていた、貨物新幹線構想があるのでしょう。国鉄コンテナを新幹線なら横向きにしてより多く積めるという貨物新幹線構想ですが、頓挫したままで新幹線で運んだコンテナを移し替えるための施設などすでにもう売却されて存在しません。

また、佐賀市内からの利便性に新幹線は寄与しないため、「新交通システムがあれば利便性が高まる」とか、別の投資が佐賀県には必要ということも、自白されています。実際のところ必要なのは、佐賀市街地への道路整備です。この道路整備は柳川などの福岡県南部からのアクセス向上にも繋がり佐賀空港が、「九州佐賀国際空港」という名に沿った利便性向上へのいちばん大事なポイントです。

ゼロベースで長崎新幹線を考える という掛け声とともに、佐賀空港ルートとかの新しい案がいくつか出ていますが、結局のところ、「それなら佐賀県としてぜひ投資したい」という魅力的な案にはなっていません。武雄温泉から長崎までの先の方だけフル規格で作っているから、途中をどうにかして欲しいという希望はわかりますが、整備新幹線の地元負担という枠組みで佐賀県としては投資対効果に見合わないという結論は変わりません。

武雄温泉から長崎までを在来線軌間で作り直すことができないのなら、
1 リレー方式の永続化
2 費用負担ゼロで建設して、新幹線特急料金も割り引くとか、佐賀県としても賛成したくなる破格の好条件を提示する

のいずれかが必要でしょう。

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