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生活保護受給者の自殺率が2倍以上高い、その理由に迫る

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舞田敏彦 武蔵野大学、杏林大学兼任講師が、生活保護受給者で特に30代で自殺率が高いことを問題にされています。年代別に分けて30代では5倍以上高い自殺率ということを問題にし、その原因の一つとして生活保護受給者へのバッシングを想定されているわけです。そこから、生活保護が機能してないのではという推測を語られています。確かに5倍も高いというのは異常な値であり、何か制度に問題があると考えるのも無理は無いかもしれません。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/02/2010.html

データえっせい: 生活保護受給者の自殺率(2010年) via kwout

考えてみれば,若年の生活保護受給者は,重度の精神疾患で働けないなど,かなり「セレクト」された人たちです。ある精神科医の方がツイッターで教えて下さったところによると,30代の生保受給者の多くは精神疾患を患っているとのこと。

 これに追い打ちをかけるかのごとく,世間からのバッシングの風当たりは強く(怠け者!),行政の就労指導も厳しいときています(必要なのは配慮であるのに)。若年の生活保護受給者の自殺率が異常に高いというのも,分かろうというものです。

 生活保護は,憲法にて規定されている生存権を保障するための制度ですが,若年層にとっては,上手く機能していないのではないでしょうか。「働かざる者食うべからず」,年齢による役割規範の強い日本ならではの特徴だと思いますが,どうでしょう。

舞田氏の考察中で、ツイッターで、「30代の生保受給者の多くは精神疾患を患っているとのこと。」という示唆を受けたことが紹介されています。実はこの精神疾患の情報は舞田氏がデータソースとして挙げられている、 厚生労働省 生活保護受給者の自殺者数について(PDF) http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ifbg-att/2r9852000001ifhr.pdf

でも挙げられている大きな要因です。

6 精神疾患の有無別自殺者数
• 自殺者のうち精神疾患を有する者が多く、3年間の累計で1,936人(66.0%)となっている。
またこの割合は3年間を通じてほぼ同様である。
• なお、被保護者数に占める精神疾患及び精神障害を有する者の割合は15.0%であるのに対し、全人口に占める推定精神疾患患者の割合は2.5%となっている。

ここでのデータと警察庁の 平成24年中における自殺の状況 の資料2 第2章
平成24年中における自殺の内訳から階層別の自殺率と構成比率を比較してみました。

階層別に、日本全体と、生活保護受給者で自殺率を比べたのが以下のグラフです。

Snap15舞田氏のグラフであったような極端な差は、階層別比較では無いことがわかります。精神疾患有り同士で、生活保護受給者は1.2倍ほど自殺率が高いのですが、親族からの保護が受けられない状態が多いと考えると、あまり差がないと言えるかもしれません。生活保護に係るコストが問題視される場合も増えていますが、私には、ケースワーカーの方が奮闘されていらっしゃる姿がまぶたに浮かびます。

一方、精神疾患・障害の比率のグラフがこちらです。

Snap162.5%と15.9%という比率の差は確かに大きなものがあります。100分率の棒グラフなので差は目立ちませんが、約6.36倍多いのが生活保護受給者の集団です。

この二つの比率の関係を一つのチャートにまとめたのが以下になります。

Snap18 比較年がずれているとか自殺原因ベースであるかなど、質が違う統計を合わせているので厳密な率はあまり意味がなく、おおまかな傾向として見て欲しいのですが、いずれにしろ、自殺率が高いセグメントを多く含んでいるので、生活保護受給者の自殺率は日本全体より高いということが見て取れるでしょう。

年齢は、生き死にに関して大きく影響する基礎要因であり、年代別に比較することを無意味とは思いません。しかし、このケースでは、大きな自殺要因である精神疾患有無の統計データを拾うことでより実態が見えてきたのではないかと思います。

最後に、先日読了したばかりの統計に関する素晴らしい本を参考にご紹介します。NHK EテレサイエンスZEROにレギューラー出演されているサイエンス・ライター竹内薫氏の「統計の9割は嘘」という本です。


グラフの作り方やデータの拾い方とかでいくらでも統計で人を誘導したり騙せるということが、携帯電話のつながりやすさNo.1 とかレーシック手術の問題、原発再稼働の世論調査など身近な例を多用してわかりやすく解説されています。統計やグラフの使い方、調査での設問の立て方などでいくらでも人を誘導でき、その気をつけ方がわかりやすく解説されおり、お勧めです。

 

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