Facebook ビジネスモデルを徹底分析 ~ mixi,モバゲー,GREEと比較
Facebookの勢いがとまらない。
全世界会員3.5億人の50%は毎日訪問し,日平均で1億枚もの写真が投稿されている。
昨年のクリスマスには,米国内のアクセス数でFacebookがGoogleを押さえてトップになったことが話題になったが,実はページビューでは遥か前からFacebookがGoogleを圧倒している。
そしてそのパワーはついにマネタイズにもあらわれてきた。
複数のベンチャー投資筋からの情報 (2009/7, 記事:Solicon Alley Insider) として明らかにされたFacebookの2009年収益予想は次のようものだ。(1ドル90円換算)
- セルフ広告売上 200百万ドル (180億円)
- ブランド広告売上 125百万ドル (112.5億円)
- マイクロソフト提携広告売上 150百万ドル (135億円)
- バーチャルグッズ売上 75百万ドル (67.5億円)
■ Facebook 収益構造の分析
このリーク情報に基づくと,Facebookの収益構造は,広告系売上とアプリ系売上のふたつで成り立っており,広告系はさらに3つのタイプに分類されていることがわかる。
1) 広告系売上
広告系売上は,Facebookに訪問する3.5億人のユーザーに対する純広告だ。広告主は企業であり,B2Bモデルだ。またそのうち,直接販売モデルが「セルフ広告売上」と「ブランド広告売上」,間接販売モデルが「マイクロソフト提携広告売上」だ。
(1a) セルフ広告
AdwordsやOvertureと同様,広告主は広告代理店を経由することなく,直接ウェブ上から広告出稿できる仕組みで,Facebook Adsとネーミングされている。実際に入力してみると驚くほど簡単で,入力には5分もあれば十分,ステップとしては次の3つのプロセスから成り立っている。(画像はクリックで拡大できます)
入力形式はAdwordsなどのリスティング広告と類似しているが,以下の点が相違点としてあげられる。
- 地域ターゲット属性をきめ細かく設定できるため,エリア・マーケティングが可能
- 個人ターゲット属性をきめ細かく設定できる。例えば,性年齢,学歴,勤務先,言語,交際状況の他,誕生日の人だけを対象とすることも可能
- ソーシャルグラフを指定できる。例えば,ファンページ,イベント,グループ,アプリケーションつながりを指定できる他,友人つながりも設定可能
- CPM(表示回数あたり),CPC(クリックあたり)を選択し,それに対する入札金額を指定できる
非常に洗練されたユーザーインターフェースとなっており,属性や入札額を指定すると,推定ユーザー数や推定クリック数などが表示されるのが素晴らしい。この例では,ターゲットした「東京から50マイル以内で日本語の話せる18才以上の会員」はFacebook上に178960人いることがリアルタイムに表示されている。
(1b) ブランド広告
これは日本でいうタイアップ広告で,Facebookに直接問い合わせて統合的なキャンペーン広告を作成するものだ。機能としては,ファンページを機軸に,FacebookアプリとFacebook広告を組み合わせたものになるのが一般的で,予算はページ上では100万円からとなっている。
(1c) マイクロソフト提携広告
文字通り,マイクロソフトと提携し,彼等の提供するバナー広告やスポンサードリンクを表示するものだ。なお契約は2006年に締結されたものだが,背景にグーグルとマイスペース(当時は圧倒的にNo1のSNSだった)の独占契約があり,対抗策としてマイクロソフトが動いたものだ。
2) アプリ系売上
アプリ系売上は,SNS本体ではなく,FacebookのコマースショップであるGiftShop,およびサードパーティによるアプリによってもたらされる収益で,Facebook会員からの直接売上,つまりB2Cモデルとなっている。
【Facebook内のコマースショップ GiftShopの新しい取り扱い商品】
ここで注目されるのは,友人へプレゼントするバーチャルグッズ(Virtual Gifts,E-Cards,Charity)だけでなく,音楽MP3ダウンロード販売(Music and MP3s)や物販(Real Gifts)まで商材を広げ始めている点だ。またSports系バーチャルグッズなどでブランド・タイアップ系ギフトが増えている点も見逃せない。(ただし日本ではバーチャルグッズのみ)
■ 日本のSNSとのビジネスモデル比較
ビジネスモデルで先行している日本のSNSと比較すると,Facebookの収益構造や収益性はどうなっているのか,とても気になるところだ。この節では,まずSNS単体での比較,さらにSNSエコシステム全体での比較を通じて,日米のSNSビジネスモデルを徹底分析してみたい。
1) SNS単体での収益比較
まず,SNS単体でのビジネスボリュームを比較してみよう。日本の代表選手としては,おなじみのmixi,GREE,モバゲーだ。3社発表の四半期決算から直近1年間(2008/10 - 2009/9)の売上高を,前述Facebookの2009年度売上予測と比較したのが次の表だ。
会員規模でいうとFacebookは日本の各SNSの20倍を超えているが,売上規模からいくとそこまでの差はなく,最も類似しているmixiとの比較で5倍弱であることがわかる。
ARPU(会員あたりの月売上,Average Revenue per User)で比較してみるとわかりやすい。Facebookは日本のSNSと比較すると,広告ARPUで20-40%程度,会員ARPUで2-50%程度に留まっている。そのため,会員1人あたりの月売上で約12円と,ARPUが最大であるGREEの112円と比較すると11%となっている。
理由はいくつか考えられるが,大きなポイントとしては以下の3点だろう。
- Facebook会員は全世界的に成長しており,日本のSNS会員と比較して平均収入がかなり低い
- Facebookはアプリをオープン化しているが,日本のSNSは自社売上(期間は2008/10-2009/9)としている
- 日本のSNSは,90%以上が携帯アクセスであり,PCと比較して会員課金が容易である
2) SNSエコシステムにおける収益比較
ではここで,もう少し巨視的な観点からビジネスモデルを比較するために,それぞれのエコシステム全体(アプリ,課金サービスなどを含む)に対象を広げて検討してみよう。
まず,広告売上においては,日本の場合,広告収入の大部分は広告代理店を経由している点が異なっている。ここでは代理店マージンを20%と仮定して算出している。
そしてもう一点,日本のSNSが広告売上として計上している「アフィリエイト広告」は,Facebookの「オファー広告」に相当し,実質的には仮想グッズと同様にアプリ売上に分類したほうがわかりやすい。そのためモバゲーとGREEの相当売上はアプリ売上の方に移行した。(GREEは広告売上におけるアフィリエイト比率を公開していないが,コンテンツやビシネスモデルが酷似しているため,モバゲーに準じる比率(44%)と仮定した)
アプリ売上は,オファー広告売上,仮想グッズ売上,会員フィー売上に分類される。この中で重要なポイントはFacebookにおけるアプリ・エコシステム全体の売上をどう見るかだが,ここでは2010年1月に INSIDE NETWORKが発表した Inside Virtual Goods 調査に基づき,2009年仮想グッズ市場全体を10億ドル(900億円),PV数推定からそのうち70%がFacebookエコシステムによるものとして,900億円×70% = 630億円と仮定した。
ちなみに,2009年仮想グッズ市場の900億円には,Facebookの仮想グッズ売上75億円やソーシャルゲーム・デベロッパー売上490億円(うち推定で,Zynga250億,Playfish75億,Playdom60億)などが含まれている。
結論としては,エコシステム全体で見ても,Facebookは,広告ARPUで10円,会員ARPUで15円と,いずれも日本のSNSと比較して1/4程度に留まっており,会員収入や携帯比率を考慮したとしても,ビジネスモデルが未成熟であることがわかる。逆に言うと,Facebookの収益力にはまだ相当の伸びしろがあるということだ。
■ (参考) Googleとの収益比較
Facebookのマネタイズが発展途上にあることは,Googleと比較するとより一層明らかになるので紹介したい。
これはCompeteによるFacebook(青),Google(緑)の報告者(Visits)比較だ。米国のみを対象とした推測データだが,すでにFacebookはGoogleをかわし,2010年には世界No1サイトとなるのは確実な状況となっている。ベージビューで見るとさらにこの傾向は強く,Facebookは全米PVの25%を占めており,8%のGoogleと大差がついた状況にある。
にもかかわらず,2009年の収益を比較すると,Facebook売上(495億円)はGoogle売上(2.1兆円)の2%程度に留まっているのだ。なお上記表の自社サイトはAdwordsを,他社サイトはAdsenseをあらわしている。自社サイトのみを対象としても売上は3.5%程度,SNSのCPM比率が低く検索エンジンの1/10程度だとしても,まだFacebookまわりにはきらめくようなビジネスチャンスが眠っていることは確かだろう。
■ Facebookのマネタイズ成熟度を,日本のSNSと比較する
では最後に,Facebookと日本のSNSの収益ドライバーを比較し,それぞれのマネタイズ成熟度とその可能性を探ってみたい。
収益ドライバーの項目としては,広告系を「純広告」「タイアップ広告」「セルフアド広告」とし,アプリ系のうち会員サービス(B2C)を「会員フィー」「仮想グッズ販売」「物販・音楽ダウンロード」,アプリ系のうちパートナー企業向けサービス(B2B)を「課金決済サービス」「アプリ認定サービス」「仮想グッズ提供サービス」(モバゲーのアバター提供など)とした。
またそれぞれの成熟度については,筆者見解で,「成熟」「成長」「着手」「未開拓ないし外部」の4段階で整理してみた。
この詳細は次の機会に解説したいが,ポイントだけ提示しておきたい。
- mixiは広告系が全SNSで最も強い一方,会員課金に大きく出遅れている。オープン化の収益貢献に期待がかかる
- GREE最大の強みは会員フィーだ。高品質の内製ソーシャルゲームにより会員課金で他を圧倒している
- モバゲーはバランス型だが,デベロッパー向けサービス(課金決済,アバター提供,投稿監視)が新しい
- Facebookは,会員フィーを除く全ドライバーに着手しはじめている。これからの収益急拡大が予想される
私見だが,Facebookのさらなる収益拡大のキーとなるのは次の5点だと考えている。
- 広告ターゲティングの精度向上と広告主獲得のための宣伝活動
- 仮想グッズに加え,物販・音楽ダウンロードまで手を広げたコマースショップの拡大
- 本格的に利用されはじめた独自課金サービス Pay for Facebook の拡大(課金率30%と極めて高収益)
- オプトインによる外部コマース・アクティビティのユーザー共有(Beaconはオプトアウトのため失敗)
- プレミアム会員,特にブランド広告ニーズのある企業向け有料会員サービス
なお,当ブログにて恒例となっている 「mixi,モバゲー,GREEの業績比較」 の新版を2月10日前後に記事化予定だが,日本のSNSについてはその記事にて詳細を分析する事とさせていただきたい。
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