SXSWで見た今後の組織と10xlabの挑戦
先日アメリカのテキサス州オースティンで開催されたSXSW(サウスバイサウスウエスト)に行ってきました。非常に学びの多い場となったので後日レポートとしてブログにまとめます。ちなみにSXSWはIT・音楽・映画を同時に開催するという世界最大のクリエイティブの祭典です。
■InstagramとPinterestの組織
SXSWでは、今流行っているinstagram(インスタグラム)という写真加工が簡単にできるSNSとしてiPhoneアプリを提供しているCEOや、Pinterest (ピンタレスト)というお気に入りの画像を簡単に登録できるSNSを提供している創業者のスピーチがありました。InstagramはAppleから「2011年のベストアプリ」に選ばれ1500万以上の利用者、PinterestはSXSWで最優秀アワードを受賞し1200万以上の利用者、サイト視聴数はCNN.comを越えて全米16位となったどちらも急成長注目企業です。
・利用者急増「Pinterest」の何が面白いのか 創設者「時間を超越したものを」
日本ではソーシャルゲームが非常に好調で注目を集めていますが、個人的にはファミコン世代で育ったもののゲーム偏重にはどうもしっくり来ない。オンラインゲーム事業を担当していた経験もあって、プラスの側面よりマイナス側面に目が行って好きになれません。一方、instagramもpinterestも、もう少し前のサービスならtumblrも非常に良いなぁと思っていて、何がいいのかというと、人間らしいというか、人が持っている感性やクリエイティビティ、気持ちのようなものを表現できて、かつ人をつなげるサービスとして好感を持っています。
彼らの特徴は、画像やデザインと視覚にうったえる表現と、非常にシンプルなサービスというのもありますが、サービスよりもその組織に注目をしたい。どちらも急成長中にも関わらず社員数の少ない会社なのです。Instagramは2人で創業し、8ヶ月500万人の利用者を集めてファイナンスに成功しても、未だに10人程度の会社です。Pinterestも昨年急成長し30億円もの資金調達に成功したにも関わらず従業員は20人程度。どちらの会社も印象的だったのは、チームの重要性を語っていたことです。
いわゆるネットベンチャーブームを経験していると、資金調達をしてMBA的な経営能力の高い人が中途で入り、採用を一気に進めて短期間で従業員が増加し勝負しにいくのが一般的でした。スピードこそ勝敗を決めると信じ組織を拡大していきます。最近でも急成長企業はあっという間に100人以上の会社になっています。当社もそうですし、日本のネットベンチャーも資金調達や上場すると、採用に力を入れて組織を拡大していきます。一方人数が増えると、マネジメントが発生し、ルールを作らないといけなくなり、必要な機能(管理部門・営業部門・サポート部門など)をどんどん増やしていきます。組織内の人間関係に問題が生じたり、思考が内向きになってあの人は何をやっているんだとか、何を考えているかわからないなど、シンプルに目の前の業務に集中できない環境となってしまい、組織が機能不全を起こすケースは多々見られます。誰が悪いということもなく、人が増えると起こりやすくなってしまうものです。
それが彼らは1000万人の利用者を越え、世界的に利用者が拡大しインパクトを生み出しつつあるサービスをたったの10−20名で運営し、しかも立ち上げから数百万人のレベルに行くまでは2−3人で会社・サービスを運営しているというのです。どちらも未だにAndroid対応すらしていません。資金があるにも関わらず採用を急がず、やみくもに事業拡大をしていないのです。一方で初めからスケーラビリティについては注力しており、ユーザー数やサービス利用の急増に対応できるようにしっかりと準備・改善されており、まさに選択と集中を実践し、無理な多角化もしていません。
MicrosoftやYahoo!,Googleはもちろん、Facebookですらもはや大きな組織です。これからの組織を考えるにあたり、果たしてチームレベルの一致団結した会社と、今成功している巨大企業は5年後どちらが利用者の指示を得るサービスになっているでしょうか?この1年を振り返って、またこの10年を振り返って、僕にはチームレベルの一致団結した会社が勝っているように思います。少なくともそっちの方が毎日を熱く、楽しく仕事しているんじゃないかと思います。SXSWで感じたのは、経営者が手を動かして実践し、行動していること。会社のビジョンではなく、サービスのビジョンを語っていました。
従業員は管理するものでもなく、モチベーションを上げるものでもない、みんなが同じ方向を向いて互いの役割を認識し、最短距離で一致団結してそこへ向かう。熱い青春時代の仲間との日々や、全国大会を目指して熱く部活動に明け暮れる日々を彼らから想起しました。小さなオフィスで顔の見える距離と人数で、世界を変えるサービスを作る。互いに尊敬し信じ合い、楽しい日々を過ごせる仲間をチームと呼び、大切にしている。
両社とも誰をチームに入れるのか、チームの大切さを語っていたことにこれからの組織のあり方を考えさせられました。そのサービスにおいてフォーカスするべきポイントはどこか?必要な組織的機能は何か?をしっかりと考えてスタートしているように思います。
■10xlabの挑戦
そんな中、当社ガイアックスのCTOの鳥居が先日、新会社”10xlab(テンエックスラボ)”を福岡に設立しました。設立趣旨を引用します。
私たち10x Labは、エンジニアリングとデザインのプロセスを統合し、革新的なソフトウェアプロダクトを作る再現性のある方法を確立することを目指しています。社名の10xは、既存の仕組みを10、20%改善するのではなく、10倍(10x)以上変えるような革新的なソフトウェアプロダクトを制作していきたいという意志をこめてつけました。
そして、大切にしていることの一つとして、
・小さなチーム
ソフトウェアのプロジェクトでは、人数が多くなるほどプロジェクトの生産性は下がっていきます。そのため常に小さなチームが維持できるようスタッフ数は最大でも7名までとしています。
小さなチームを掲げています。
10xlab代表、ガイアックスCTO鳥居のブログ:なぜ小さなチームが重要なのか?システムの品質面からの考察 - Future Journal ~未来志向で行こう~
今、私は新規事業の立ち上げをしているのですが、その開発を鳥居とともに10xlabでこの4月から本格的に開始します。先日、博多から電車で2−30分ほどに位置する九州大学の移転先の最寄りでもある10xlabへ行ってきました。近くには山があり、海があり、自然がたくさんある環境で、小さなチームの生産性を高める仕組みを随所に用意してありました。メンバーは社内外から公募し、熱い想いを持った人たちが集まってきています。(あと若干名のメンバーを募集しています)
社内公募に応募したメンバーのブログ:シリコンバレー、そして福岡へ。(MOBILE POWER )
・キッチン付きで食事も取れるリビング。まかないをおばさんが作ってくれる予定
■AppBankの事業展開
同じくガイアックスグループから生まれた会社でiPhoneアプリを紹介するメディアやゲームアプリ、iPhoneのアクセサリーショップを展開するAppBank(アップバンク)があります。代表の村井は、創業1年を過ぎたガイアックスに2000年にジョインし、2008年までガイアックスで同じオフィスで仕事していました。ところが、iPhoneが発売されるやいなや、メディアを作ると言い出し、オフィスも東京から離れて日本のシリコンバレー的環境の鎌倉に移転すると言って引っ越していきました。
たった2人で立ち上げたAppBankはあっという間に日本最大のiPhoneアプリのメディアとなり、その後メディアパワーを拡大するとともにゲームアプリやショップ展開を開始。しかしながら従業員数は急拡大せず10名程度。ECおよびショップ展開は、別会社とアライアンスを組み、ゲーム開発も別会社とのアライアンス(現在は子会社化)をして展開しています。
・3月16日にオープンしたAppBank Store 福岡店(パルコ3F)
AppBankの事業展開や、10xlabの展開を間近で見ていて思うのは、スピード感です。スピード感も昔ながらの人を増やしてスピードを上げる・拡大するのではなく、人を増やさずにスピードを上げる。昔は管理型の組織で人を増やしてトップダウンで号令をかけてスピードを上げることができたかもしれません。でも今は、多様化・成熟した社会では、一人一人が柔軟に活躍できる組織がスピードが早い。けれども会社として大きくなってしまうと、自由度がある分、逆に組織が混乱し、ひとつにまとまることが難しいジレンマに悩まされます。結果、InstagramやPinterestのように急激に人を増やさずチームを大切にしたサービスの拡大が今後主流になるのではないかと思うのです。
今年立ち上げる新規事業は様々な挑戦をしています。もちろんサービスとしてもそうですが、組織としても10xlabを初めチームをどう作っていくか?これまでの部署運営とは違う、社外の専門化や若い才能を持つメンバーがサービスの目指す社会に共感してもらい、パートナー的に参画してもらうようなスタイルに挑戦しています。まだまだお見せできる状態ではないですが、年内早い段階で色々と情報発信していきたいと思います。会社のあり方、フリーランスやノマドを初めとする個人のあり方、そしてチーム。これからの組織のあり方を模索していきたいと思います。
■参考書籍
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