放送と通信の融合をめぐる日米のねじれ
日本でも、米国でもいよいよ光ファイバー網を使った放送サービスが見えている。奇妙なことに、光ファイバー放送を巡って日本でも、米国でも制度のねじれが問題になっている。つまり、日本では「放送法・役務利用放送法」と「著作権法」が放送の解釈を巡ってねじれ現象を起こしているが、米国でも同じ様な事が起こっている。
まず米国だが、電話業界最大手のベライゾン・コミュニケーションズが、今年の末をめどに光網を使った放送サービスを準備している。同社の方式はCATVと同じように数百チャンネル分の番組を一度に家庭まで送り込み、チューナー(セット・トップ・ボックス)で必要な番組を選ぶ方式だ。これを光ケーブル・テレビと呼ぶが、この場合はCATVと同じようにケーブル・フランチャイズ免許という放送事業許可を地方自治体から得なければならない。
日本の法制度に照らしても、ベライゾンのサービスは「放送」事業にあたり複製権処理や隣接権者処理で大きなメリットが得られる。問題は、全米規模で展開しようとすると1万件を越える免許取得が必要になることだ。ベライゾンは、これに頭を抱えている。
一方、電話業界2位のSBCコミュニケーションズは、IPTV方式を採用している。つまり、ストリーミング放送で、セット・トップ・ボックス側から希望する番組を局側にリモコンで指示すると、それを映像サーバーからIP信号にして流す方式だ。この場合、米国では通信法のOVS(オープン・ビデオ・システム)という規定を使った放送事業となる。
日本の放送に詳しい方は、ここでピーンとこられたと思う。日本流に解釈するとSBCは「自動公衆送信」となり著作権法上は「放送」と認められない。つまり著作権法的にデメリットがある。ただ、米国の場合、著作権処理問題より税金問題が表面化している。つまり、OVSを使ってSBCのような大手が「本格的な放送事業をやって良いのか?」と言う本質的な解釈が問題となっている。それはOVSが生まれた背景にある。
米国では1984年にケーブル事業法が制定された。この法律で、連邦議会は料金設定や番組編成の自由化を認める代わりに、CATV業界にも競争を導入しようとした。しかし、CATV業界は一向に競争を行わず、料金の引き上げなどおいしい部分だけを食い散らかした。これに立腹した連邦議会は、1996年に改訂した通信法で、ケーブル事業法が定めるフランチャイズ免許がなくても、放送事業ができるOVS条項が盛り込んだ。この場合、フランチャイズ免許が必要ないので「フランチャイズ・フィー」と呼ばれる税金を支払う必要がない。これは一種の税制優遇処置だ。
しかし、このOVS条項は小さな通信事業者を対象に考えられたもので、SBCのような大手が全米規模でIPTVを展開する状況を想定していなかった。数千万世帯を対象とした場合、このフランチャイズ・フィーが不要となると大きなメリットで、CATV事業者は不当だとクレームをつけている。こうした反論に対応して、SBCもフランチャイズ・フィーを支払う姿勢を見せている。そのため、ベライゾン同様、大量の免許取得作業が必要となる。
米国では、2005年末をめどに連邦議会と連邦通信委員会(FCC)が、この制度のねじれを調整する予定だ。今月はじめに、連邦議会では個別にフランチャイズ免許を取らなくても良いように、法的救済措置を講じる動きにでた。これによりFCCが具体的な救済策を打ち出すことになるだろう。それを待ってベライゾンもSBCも放送サービスを開始するとしている。
さて、世界最大の光ファイバー網を持つ日本だが、電話会社が放送事業を始められるのは、いったいいつになるのだろうか。