本命がついに参入 - 電子ブック市場に見るベンチャー投資の見本
昨日、米国書店最大手のBarnes & Nobleが電子ブック市場に参入すると発表しました。AmazonのKindleに遅れること1年、本命の参戦で電子ブック市場はにわかに活況を呈して来ました。家にいながら立ち読みが出来る・・・おそらく、電子ブック市場は、書店で本を手に取った後に購入する客を、家を出る前に捕まえるという即効性を狙うものだと思います。
ところで、この2社は因縁の中です。その昔、Amazonがオンライン書店に参入した際、Barnes & Nobleはその先見性に気付かず(あるいは無視して)、同市場への参入が遅れ、いまだに当該市場では大きな差をつけられています。 この戦いは各ビジネススクールの教材になるぐらい有名で、既存のリアルなチェーン店を持つ企業が新興ネット企業にあっさり負けるという、見事に分かりやすい図式が学生に大いに受けた次第です。
それを踏まえてか、今回のBarnes & Nobleの参入は非常に速かったと思います。電子ブックリーダーソフトも各プラットフォーム用に用意されており、電子コンテンツもすぐに100万種類に到達するとのこと。さすがに専用ブックリーダー端末は来年になるようですが、Amazonの動きに反応した戦略としてはかなり準備を重ねた様子が伺えます。Jeff Bezosに嫌われているGoogleが50万冊分の電子データをBarnes & Nobleに寄付するといったニュースもあり、提携話もうまくいったようです。
これこそ米国のベンチャー参戦の様式だろうと思います。Barnes & Noble自体はベンチャーではないですが、この事業自体は同社の中では海とも山とも判断できないベンチャー投資に他ならないでしょう。そして、ベンチャーが新興市場に参入する限り、市場データや実績、前例など一切無いわけで、今回の判断はある程度のバクチ性を持っているはずです。しかし、10年前の轍を踏まないよう、まだほとんど市場データが無いまま、見切って参入したのではないでしょうか。それが専用リーダーを遅らせた理由かもしれません。しかし、参入が早ければ早いほどトップに立てる=覇権の確率が一気に高まるわけです。
さて、振り返って我が国の場合。
新興市場への参入を企画する際に、市場データをかき集めたり、他社動向を調べる大手企業が後を絶ちません。新興市場相手にそんな作業をしても微塵の役にも立たないはずです。ある程度コントロール不可能な投資こそがベンチャー投資であり、ポートフォリオを押さえた上でバクチ投資に賭けることも投資の一つです。
こういうベンチャー興しは米国の得意技です。日本でもこのような投資をもっと多く見たいと思います。電子ブック市場を例に取れば、電子ペーパーとまったく反対側にいる凸版や大日本印刷にこのような投資をみてみたいものです。