やりたい、やりたい 【非ベンチャー起業法 ~その6】
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一人になると急に空調の音が大きく聞こえる。
鈴木社長は、にわかにそわそわし始めた。
2ヶ月前から雇い始めた大学生の山田さん(仮名:20歳女性)が、さきほど「お先に失礼しまーす!」と元気に帰って行ったのだ。
どうしようか。見ようか。見まいでおくか。
見たら後には引き返せない性格なのは自分でもよく分かっていた。
みれば、やりたくなってしまう。
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そう、この仕事は彼女に任せることに決めた案件だ。ここで見てあーだこーだ言うのは彼女の成長にとってよくない。彼女にやらせなければ...!
いや、いや、待てよ。
そうだろうか??
お客さんのことを考えれば、ここは見て当然だ。俺は社長なんだ。見る権利があるし、見なきゃいけない。
鈴木社長は、キーボードを取り、山田さんのリポジトリを覗いてみた。
プログラマはファイル名の付け方やディレクトリ構造で瞬時にその力量がわかる。
残念なことにというか、予想通りというか、この段階で、鈴木社長はHPに300ポイントくらいのダメージを受けた。
見なくてもおよそ中身は想像できる。が、おそるおそる1ファイルずつ中を開いてみる。
あー!!
やってる!!
入社して、2ヶ月間。新人研修と称して毎週月曜と木曜日1時間ずつ、かなりしっかりと教えたはずの手法を完全に無視して独自ルールでやっている。ほぼ、入社面接時に見たレベルのまんまだ。
分かったような顔して、何聞いてたんだよ。。
これまでかけた教育コストだけでも大変なものだ。
もし、このノウハウをセミナーで話して欲しいって言われたら30万はもらいたい。それくらいの価値のある話をしてきたつもりだ。
それをマンツーマンでみっちり教えてきた。なのに、このプログラムの出来はどうだ。
この案件は、非常にコンパクト。自分なら1日、、いや長めにみて3日あれば必ず終わる規模。
新人にはちょうどいいと思って任せてみたら、このていたらくだ。
確かに、このソースでも動くかも知れない。
でも、のちのち、○○という機能を拡張して欲しいを言われたらどうするんだ?
このクオリティで、お客さんに出していいのだろうか。ソースを見られたらかなりやばい。
やりたい、やりたい...。むずむず。
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ところで、山田さんは毎日定時に帰る。
いや、それでいい。時給1,200円だ。1時間居てもらうと、高いランチくらいの金が飛ぶ。むしろ早く帰って欲しい。
しかし、帰ってもいいけど、仕事は続けろよ...。
俺は家でもやってる。
プログラムの仕事なんてエンジニアにとって生活そのものだろう。
安いサーバーなら数百円で借りられる。、、って、知らないか。調べろよ。
それでサーバー立てて、開発環境作って、「社長、家で続きやっていいですか」って聞けよ。持って帰ってやれよ。
こんなコンパクトで勉強になる仕事、なかなか出ない。何で画面に穴が空くくらい打ち込まないんだ。
そして、このクオリティ。
これは酷い。
帰るし。
いや帰るのはいいけど、仕事終わらないし。なんのために雇ってるんだ?
これ、続き、やっちゃうか?
いや、続きじゃない。ゼロから作った方が早い。
やっちゃうか?やっちゃうのか?
今20時。明日の朝にはあらかたできちゃう。
よし、リポD買ってくるか...!
---起業後、初めて社員を雇い入れたとき、誰もが思うこと。でした。
たぶん業界が違っても、似たようなことが起きると思います。
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