ジオン軍の失敗
青山ブックセンターの本店がどこにあるか知っているだろうか。国道246号、通称青山通りのこどもの城裏のちょっとかっこいい建物の階下に、ひっそりと佇んでいるのだ。
大きな書店の本店にしては、地味だ。しかし、読書愛好家の間では、人がたくさんいなくて、ところどころに椅子があり、ゆっくり選ぶことができるからいいのだと、なかなか評判がよいようだ。
先日、こんなうわさを聞きつけて、オフィスの帰途にふらっと寄ってみた。なるほど、これはうわさどおり、やけに閑散としている。しかも、並んでいる本にやや偏りがある、かも。充実しているのは、大判の美術、写真といった、一般的な小型店舗では扱いづらい高額の書籍のように見受けられる。やはり、適材適本、これも戦略のひとつなのだろう。
大判の本を一通り見た後、私はいつものビジネス書を見て回る。何気なく新書のコーナーに目をやってみると、私や、アジュールの鼓動氏にぴったりのそれ、「ジオン軍の失敗」と題した本が。なぜ、「ジオン軍の失敗」と称する本がビジネス新書コーナーの一角(いや、実際には必ずしもビジネス書とはいえないものも混ざっているのだが)にあるのか、不思議に思いつつ手に取ってみた。
きっと、ビジネス書の一角にあるのは何かの間違いで、内容は、ガンダム大好きな人たちに向けたシャアがどうとか、コンスコンがどうとか、ククルス・ドアンがどうとか、ミハルは残念だった、とかそういう話なのだろう、とたかをくくっていた。
でも、まったく違うものだった。
よく見ると、オビにも書いてある。「ガンダムから学ぶ、失敗の本質。製品開発にかかわるすべての人へ。」
つまり、結果的に敗北したジオン公国の主要モビルスーツは、その開発思想やプロセス、そして、生産ラインなどの側面を見たときに、どのような過ちをおかしたかを解説しているのである。モビルスーツのイラストや機体番号(MS-06とか、MSM-07とかそういうやつ)がなければ、「xxx株式会社の失敗」でももしかしたら通るかもしれない。
気になった箇所をいくつかご紹介しよう。
ジオン公国は、地球連邦軍に比べて早い段階でモビルスーツの開発に成功し、その戦線への投入を実現した。初期に投入した量産機体MS-06(ザクⅠⅠ)は大きな戦跡を残し、ジオン公国の初期フラッグシップとして高い評価を得ていた。
しかし、これが次の開発への足かせになってしまうのだ。
MS-06の開発評価が成功した時点で、高官と開発陣はMS-06の性能向上、延長上での開発に縛られてしまったのである。つまり、成功体験の呪縛、とも翻訳できる。著者の岡島氏はこう指摘する。
(ジオン)公国軍はいずれかの時点でザクⅠⅠと決別すべきであった。何故ならば、世代が異なる先行機にパッチをあてても、上限値は固定であり、新世代機に伍することは困難であるからだ。
としている。
この章、結びの提言は;
万能機が本当に万能であるケースは極めてまれである。万能機はともすれば、工業製品としてクリティカルな要素を犠牲にしている。また、成功体験が長期的な失敗を誘発することはままある。
(つづく)