オバマ新大統領就任演説抄録(日本時間1月21日午前2時)
*採録に時間がかかってしまいました。
オバマ新大統領就任演説抄録(日本時間1月21日午前2時)
親愛なる国民の皆さん、私は今、私たちを待ち受ける任務を思い、謙虚な気持ちでここに立っています。皆さんがくれた信頼に感謝をし、また、先人たちが成し遂げたことを思っています。ブッシュ氏がこの国のためにしてくれたことに感謝をします。
これまでアメリカで大統領就任会見を行ったのは44人です。繁栄を謳歌した時期に演説を行った人もいれば、反対に、暗雲が立ち込める中、この宣誓を行った人もいます。そんなときにも、高い地位につくひとからのヴィジョンのみならず、私たち人民が先人の理想に忠実であり、建国の宣言に忠実だったので前に進んできたのです。現世代のアメリカの人々もそうでなくてはなりません。
私たちは今、危機の最中にいます。アメリカは戦争をしています。大きな暴力や憎しみのネットワークを相手は持っています。私たちの経済は弱体化しています。一部の人の貪欲で無責任な行動が招いた結果です。しかし、同時に厳しい選択を避け、明日を創ることへの注力を怠ってきた私たち皆の責任でもあります。
家が失われ、雇用が減り、企業が破綻しました。医療は高く、学校は期待にこたえられず、また、私たちがエネルギーを使うことが、私たちが敵対する者の力を強め、地球の環境に影響を及ぼしています。こうした危機はデータや統計で見ることができます。しかし、これ以上に、数字では見ることができないが深刻なのは、アメリカ自身の自信が揺らいでいることです。
アメリカは復活することができないのではないか、次の世代の人は、高い目標を掲げそれを達成することができないのではないか、という不安がはびこっています。今日皆さんに申し上げます。私たちが直面している課題は、現実なのです。深刻な課題が数多くあります。短期間で簡単に克服することはできないかもしれません。しかし、アメリカよ。私たちはいつか、必ず克服するのです。
今日この日、私たちはここに集結しています。それは、私たちが不安ではなく、希望を選んだからです。紛争といがみあいではなく、目的のために団結することを選んだからです。今日この日、不満やいい加減な約束、あまりにも長期間政治を締め付けてきた、非難や、使い古された独断に、終止符を打つことを宣言します。
アメリカはまだ、若い国です。しかし、聖書には子供じみた行動は脇に置くべきだと書かれています。いまこそ私たちのゆるぎない精神をあらためて固め、よりよい歴史を選ぶべきときです。
高潔な理想を前に進め、世代から世代へと渡していくのです。それは神が与えた約束です。私たちは平等で自由です。幸福を追求するチャンスを与えられているという約束なのです。
アメリカの偉大さは与えられたのではなく、努力して得たものです。私たちは近道も、低い目標もありませんでした。意気地なしの道でもありません。働くことよりも遊ぶことを選んだ者、名声を求めるものの道でもありません。リスクを厭わず、行動を起こし、物事を成し遂げる人たちの道なのです。中には注目を集めた人もいますが、目立たないところで懸命に仕事をしてきた人たちの、繁栄と自由の道なのです。
私たちにとって、持つものも持たず海を渡って、新しい生活を創っていった人がいます。私たちのために地道に働き、西部に定住し、鞭を打たれ、畑を耕してきた人たちがいます。私たちのために、コンコード、ゲティスバーグ、ノルマンディやケサンで戦って亡くなった人がいます。
何度も彼らはたたかいました。手がぼろぼろになるまで戦いました。働きました。より良い生活をするためです。アメリカは、個々の野心を集めた総体よりも大きなものです。富や派閥の違い、すべてより大きなものの存在であることを知っていたからなのです。その旅を、今日も、私たちは続けて行きます。地球上で、アメリカはもっとも繁栄する、もっとも強い国家です。この危機が始まってからも、労働者は依然と変わらない生産性をもち、私たちの頭は依然と変わらず発明の力を持っています。
私たちの能力は縮小していません。これまでと違うやり方にしていかなければならないのです。今日から私たちは立ち上がり、埃を払い、そして、アメリカをまた創り直すという仕事を始めなければならないのです。
どこを見てもなすべき仕事があります。経済状況は大胆で速やかな行動を必要としています。私たちは行動をおこします。新しい雇用を生み出すためではなく、成長の土台を築くためです。道路や橋を作ります。送電網を作り、そして私たちを結びつけるデジタルラインも作ります。科学に地位を与え、技術を磨き、医療保険を低くします。太陽や風、地熱を使って、私たちは車を動かし、工場を動かして行きます。学校、大学など、将来の要請に応えられるよう、変えていきます。こうしたこと、すべてをやっていきます。
これらの野心は大きすぎるのでは?私たちのシステムではできないのでは?そういう人もいます。彼らは記憶力がないですね。自由な男女が本当の想像力と、共通の目標を持ち、必要性と勇気を結びつければ何も成し遂げられないことなんてありません。これまでに、たくさんのことを成し遂げてきました。皮肉屋は自分たちの足元から地面が揺れていることを忘れているのです。古びた政治的な議論ばかりをしています。今日私たちの問題は、政府の大きさではなく、機能するかどうかが大事なのです。家族が仕事につき、そして人間らしい生活がしていけるように、尊厳をもって引退ができるようにするのです。
答えがイエスならばそれらを推し進め、反対に”No”と効果のないプログラムは取りやめます。公人を使う立場のものは、公明で、透明性を持った取り組みを推進しなければなりません。悪い習慣はやめます。そうして初めて、真の信頼関係が生まれるのです。市場の良し悪しは本質的に問題ではありません。市場ほど富を生み出し、自由を広げることができるものはありません。しかし、この危機は私たちにあることを想起させます。ちゃんと監督をしなければ、制御できなくなってしまうということです。富めるもののみがいつも得するようなシステムではいけないのです。経済の成功は、GDPのサイズにあるのではなく、チャンスをすべての者に与える、ということにあります。慈善の心ではなく、私たちの共通の善につながる、一番確かな道なのです。
私たち共通の防衛のために、安全か、理想か、どちらかを選ばなければならないということではありません。アメリカ建国の父は、創造を絶する危機に直面しました。そのとき、法の支配と、権利が両立する仕組みを作り上げたのです。それが私たちの憲章です。そして、利己主義のためにこうした憲章を捨ててはいけません。
今日、世界中の人々、政府が注目をしています。すべての市町村、男女。私たちは再び、皆を率いる用意がある。私たちは皆の友達であるということを知ってほしい。
先人たちはファシズムと共産主義に立ち向かいました。ミサイルや戦車を使っただけではありません。ゆるぎない同盟と、ゆるぎない信念を持って立ち向かったのです。力だけでは私たちを守ることはできないとわかっていたのです。力だけでは私たちの望むことはできません。力とは慎重に使ってこそ、はじめて生きるものです。安全保障は、正義によって生まれるのです。謙虚さと、節度と調和の取れた形をつくる。この手本を示していかなければなりません。私たちは伝統を守って行きます。再びこの原理、原則によって導かれていくべきです。より大きな強力と理解を国家間で進めることで新たな脅威に立ち向かって行きます。イラクには責任ある形をもって、指揮などを任せて行きます。そして、アフガニスタンでも平和を築いていかなければなりません。古くからの友好国とも、敵対国とも、核の削減について話し合っていかなければなりません。私たちは、国を守ることについて決してためらいません。罪のない人々を脅かす人には、私たちはもっと強くなっていき、そのような輩を打ち負かしていくことを宣言します。
私たちは、多様性に富むことの強さを知っています。これは弱さではありません。アメリカには、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒やヒンドゥ教徒、あるいは無神論者がいます。あらゆる言語や文化があります。地球上のあらゆる国からアメリカには集まっています。アメリカは、南北戦争と、人種差別(隔離)という苦い経験をしています。私たちはこれらを経て今、一致団結をしているのです。憎しみはいつか消えます。そして、部族の分断を乗り越えることができるのです。世界はますます小さくなり、人間性が露に、問われてくるでしょう。アメリカは、新しい平和の時代へと、その役割を果たしていくのです。
イスラムの世界の方々、私たちは前に進んでいく新しい道を求めます。お互いに、尊敬をしていく道です。世界の人々の方々、様々の紛争の種をまいている人たちもいるでしょう。自分たちの社会の問題を、西側諸国のせいにしている人もいるでしょう。私たちは、こうした人たちが、何を破壊するかではなく、何を創り上げるかによって判断をすべきでしょう。また、うそやまやかし等によってその地位にしがみつこうとする人たちもいるでしょう。しかし、それは、間違った歴史の道を歩もうとしているのです。そうした人たちも、敵対する力を緩めるのであれば、私たちも手を差し伸べようと思います。貧しいところの人たちには、皆で協力し、その農場が豊かに実るよう、きれいな水が流れるよう、努力をしましょう。飢える体に十分な栄養を与えましょう。豊かな人たちは、ほかの人たちのことを忘れてはなりません。地球の資源を、他者を思いやることなく使い、使い果たしてはいけません。世界は変わりました。私たちも変わらなければなりません。
これから先の道を、私たちは感謝しながら歩まなければいけません。遠くの山岳地帯でパトロールをしている勇敢な兵士がいます。彼らは私たちにきっと語ってくれるでしょう。それは、アーリントンの墓地で眠っている英雄たちのささやきと一緒です。私たちは彼らを尊敬します。それは、彼らが私たちの自由を守ってくれているからだけではなく、奉仕の精神を具現化しているからです。つまり、自分自身よりも大きなものに仕えているからです。現代こそこのような奉仕の精神が必要なのです。政府にはできること、すべきことがたくさんあります。しかし、この国が頼っているのはアメリカ国民の信念と決意です。堤防が壊れたときに道を失っている人を受け入れる親切さ、同僚が仕事を失うなら、自分の労働時間を少しカットしてもよいという無私無欲の精神、煙が充満する階段を、人を救うために昇っていく消防士の勇気、そして、子供を慈しみ育てていく親たち。。。そういう人たちが私たちの運命を決めていくのです。
私たちの挑戦はまったく新しいものかもしれません。その挑戦に立ち向かう方法もまったく新しいかもしれません。しかし、それを成功させるための価値観は昔と同じで変わりません。勤勉の精神、正直さ、勇気、寛容の精神、好奇心、忠誠心、愛国心・・・これこそ真なるものです。私たちは歴史を通して力を持ち続けました。私たちは真実に立ち戻らなければなりません。今、新しい責任の時代が来たのです。私たちアメリカ人が、自分自身にも、国にも世界にも、責任があることを認めなければならないのです。いやいや受け入れる義務ではなく、喜んで受け入れるのです。そうしてこそ、精神が満足し、人格が磨かれ、難しい仕事をするために全身全霊を差し出すのです。これが、市民を代表し、市民であるための約束です。それこそが、私たち自身の自信の源なのです。神がそのために私たちを呼んでいます。
自由と信条、これがあってこそ、今この場所にあらゆる人種、宗教の人たちがたくさん集まっているのです。
たった60年前、皆さんと同じレストランに入ることができなかった父親をもつ人間がここに立ち、最も聖なる宣誓をしました。これはこの自由と信条のためなのです。
私たちは何者なのか、どこまでやってきたのかを思い馳せましょう。
アメリカが誕生した日は、もっとも寒い月でした。凍てつく氷の川の近くで小さな焚き火に人々が身を寄せ合っていました。敵は進軍し、雪は血に染まりました。その果てに、建国の父は人々に次の言葉を読み上げるよう指示をしたのです。
後世の世界に伝えてほしい。
雪の真っ只中、もはや何も生存できそうにない状況にあったとき、希望と美徳は存在し続けた。そして町も国も、ひとつの共通の危険に警戒を覚え、この危険を迎え撃つために立ち上がった。アメリカよ、われわれも共通の危険に直面する今、この苦難の冬の中にあって、この永遠に不変の言葉を思い出さなければなりません。希望と美徳をもって冷たい川の流れに、勇気を持って立ち向かい、嵐を耐え抜きましょう。そして私たちの子供、子供の子供が、私たちが試練を受けて絶やされたときも、この旅を終えることを、やめることなく、後戻りもせず、立ち止まらず、地平線を見据え、神の祝福を見据え、自由と偉大な賜物を運び、未来の世代に無事に届けたのだということを、言われるように。
神のご加護が、アメリカに、そして皆さんにありますように。