オルタナティブ・ブログ > 成迫剛志の『ICT幸福論』 >

”情報通信テクノロジは人々を幸せにする”を信条に、IT業界やアジア・中国を見つめていきます。

アジャイル開発とスクラム(平鍋健児、野中郁次郎、及部敬雄著)は全ての管理職に読んで欲しい

»

友人である平鍋健児氏から、彼と野中郁次郎先生、そして現在私の部署に所属する及部敬雄氏の共著である 「アジャイル開発とスクラム」を送っていただいた。

私の部署でも、4年前からアジャイル・スクラムに取り組んでおり、一定の成果も得られているので、参考程度に斜め読みしようかと、本書を開いたのだが、目から鱗の内容が盛りだくさんであり、熟読させていただいた。 これは、ソフトウエア開発の新しい手法を解説したものではない。タイトルから、ソフトウェア開発の手法の解説と思われてしまうかも知れないが、日本の大企業のあらゆる分野の経営層や管理職にお勧めしたい本である。


冒頭で、多くの業務で用いられているこれまでのやり方では、以下のような問題にぶち当たるという記載がある。

  • 最初の見積もりが不正確で、完成期限(完了期限)が守れず、テスト(確認)期間が短縮されてしまう
  • 開発全体(業務全体)の進捗が不透明で、現状が正確につかめない
  • 機能(最終的に完成させるもの、こと)に対する修正や変更のフィードバックが、開発(業務)の最後になって届く。
  • スケジュールが遅延し、リリース日(完了日)の予測が困難
  • チーム(組織)が肥大化するにつれ、徐々に生産性が落ちてきた

ソフトウェア開発に限ったことではなく、あらゆる業務において、同様のことを経験したことがあるのではないだろうか?

アジャイル、そしてその最もポピュラーな手法であるスクラムは、これらの問題を解決できる可能性が高い手法である。

スクラムの源流は、日本の80年代の製造業での新製品開発からヒントを得て体系化されたものであり、竹中弘高氏と野中郁次郎氏の論文がもととなっている。 そのオリジナルの論文は、組織経営やチーム運営にフォーカスしたものであるそうであり、ゆえにソフトウェア開発だけでなく、しつこいようだが、あらゆる分野の経営層や管理職にお勧めしたい。

この元となった論文は、1986年に発表されたものなのだが、以下のような記述がある。

今日では新製品開発の動きが速く、競争率の高い世界では、速度と柔軟性がとても重要である。企業は、新製品開発に直線的な開発手法は古く、この方法では簡単に仕事を成し遂げることができないことを徐々に認識し始めている。日本やアメリカの企業では、ラグビーにおいて、チーム内でボールがパスされながらフィールド上を一群となって移動するかのように、全体論的な方法でを用いている。

1986年に書かれたと知らなければ、現在のVUCAの時代と呼ばれる世界では、という前置きをつけても、そのまま通用しそうな内容ではないだろうか? ということは、ひょっとしたら、日本の大企業は、1986年から進歩していないのかも知れない。いや、むしろ劣化しているのかも知れない。

経営層や管理職に本書を読んで欲しい理由は、それに気づいて欲しいからである。 硬直化した組織、変革できない組織を変えるためのヒントを "アジャイル開発とスクラム" からいくつも見つけることができるだろう。

ソフトウェア開発に記述がいくつも残っていてわかりにくいかも知れないが、わからなくても気にせずに一度、ざっと読んでみたいただきたい。 

アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント

Comment(0)