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「わざ」を身につけたければプロと同じ空気を吸おう

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呼吸する男性会社員(小).jpg

営業や事務職、エンジニア、プログラマー、研究者、さらにマネジメントまで、すべての仕事には「わざ」があります。

「わざ」は、伝統芸能やスポーツ、料理などの世界だけの話しではありません。

その道のプロになるために必要なのは、仕事の奥義ともいうべき「わざ」を体得すること。

一流の「わざ」を身につけるのは時間がかかります。時間だけかけていても身につかない場合もあります。しかも、自己流で学んで間違ったクセをつけてしまうと、直すのに苦労します。

だから伝統芸能や職人は「内弟子」をとります。師匠と生活を共にして、身体で「わざ」を身につけるのです。内弟子は、師匠の家を掃除したり、食事の用意をしたりと雑用をこなしていくうちに、不思議なことに外弟子とは大きく差がついていきます。

これは理由があります。人は師匠と思う人に対して共調作用(シンクロナイズする)行動をとるからです。赤ちゃんのしぐさがお母さんの言葉や表情にシンクロするのと同じです。
「弟子は師匠と同じ世界に身をおけば、共調作用によって、師匠の『世界への潜入』を行うことができる」と、教育学者の生田久美子氏は言います。
世界への潜入ができれば、言葉だけでは伝わらない呼吸や間合い、思想までも学ぶことができるのです。

会社員が「わざ」を身につける一番の近道は、プロフェッショナルな上司や先輩、またはその道のプロにつくことです。そして、その人と可能な限り同じ空気を吸うことです。最近の内弟子制度は伝統芸能か相撲くらいで、だいぶ少なくなりました。しかし会社員は、会社に在籍すれば割と長い時間プロとの時間を共有できます。「わざ」の世界への潜入が行いやすいのです。

ただし「世界への潜入」には大事な条件があります。

自分がその「わざ」を"善い"と納得することです。
"善い"とは善人の「善」と書くので人柄のことかと思うかもしれませんがそうではありません。その人の人柄だけ良くでも、「わざ」が善くなければ、一流の「わざ」を体得することができないからです。

哲学者のソクラテスは、「"善い"とは、その人にとって役に立つことである」と言っています。

「この人の『わざ』は自分にとって役に立つ」と思ったら、少々気になることには目をつぶって、「世界への潜入」を行ってみるのがいいかもしれません。


【参考文献】
E.T.ホール『文化としての時間』宇波彰訳,TBSブリタニカ(1983年)
生田久美子『「わざ」から知る』東京大学出版(2007年)
プラトン,加来 彰俊『ゴルギアス』岩波文庫(1967年)

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