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ライフワークとしての学びを考えます。

一流のビジネスパーソンが知っている守破離の世界

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初めて着物を着たとき、あまりの動きにくさに戸惑ってしまいました。着物に動きが支配されて、何事も十分に楽しめません。自分の所作がいかに雑なものであったか気がつかされました。
一方で、着慣れた人の動きは優雅でムダがなく自然体。着物を着ていることを忘れているかのようです。

これはお稽古だけではなく、スポーツや仕事でも同じだと思います。

営業経験の長い方について営業に行ったとき、力量の違いに驚がくしたことがあります。
お客さんの話しを聞いてその概念を即座に理解し、複雑なものを要素分解して分かりやすく再構造化する。そして最初の段階より一段高いレベルでの提案を行う。情熱を秘めながらも無理なく自然で、芸術的でさえありました。
どうしたらこのように出来るのかうかがうと、「これは私オリジナルのやり方だけれども、最初は上司や先輩に教えてもらったりした。やっていれば誰でもできるようになるよ」と言います。

このような方々に共通するのは、独自の型を持っていることです。型と言っても、型にがんじがらめになるのではなく、自由に行動しても行き過ぎがないのです。

具体的に、どのように身につければよいのでしょうか。

日本の伝統的な学びのプロセス「守破離」にカギがあると思っています。

「守」では、師匠の教えを守り、型を身につけます。
「破」は、師匠に教えられた型に疑問を感じて型を破るときです。ただし型が確立されない状態で型を破っても、それは単なる「型無し」になるので注意が必要です。
「離」では、型から離れて自由になる段階です。「離」は、「破」の破るエネルギーによって成せるものなので、「守」から直接「離」に到達することはできません。守破離は、必ず「守」→「破」→「離」の段階を経るものなのです。

私が素晴らしいと感じる方々は、「離」の状態だったのではないかと思います。
営業のプロの方が言っていた「誰でもできるようになります」は、守破離を経てきたからこその言葉だったのです。

歴史学者(日本文化史・茶道史)の熊倉功夫氏は「型さえ覚えれば階級や貧富の差、個人の能力の差を超えてその道に入ることができる」と言っています。型を身につければ誰でも仕事ができるようになるということです。

さらに、型を身につけるプロセスでは型にふさわしい人格も形成されます。
たとえば、もし私が着物の型に自分をはめていけば、自由さが奪われるので辛抱も必要です。粘り強さも身につくかも知れません。
宮大工の西岡常一氏によれば、弟子が入ってきて一番先にすることは「持っている癖をとること」だそうです。これは、技術的なことだけではなく、精神性のことも言っていると思います。

つまり守破離のプロセスを経ると、「型」だけではなく、人格も形成され、最終的には自由になっていくということなのです。

一流は「一つの流れ」と書きます。一流の仕事ができる人とは、他の人がすぐに模倣できない「一つの流れ」を持っているということです。「離」で得た独自の型を持つのです。自分の仕事の方法とも言えます。自分だけの方法で花を開かせるのは、天性の才能を持っている人ではなく、守破離の道を歩んだ人なのです。

 
【参考文献】
・川上不白『不白筆記 付・孤峯川上不白道具帳写』川上宗雪 監修・谷晃 編集・中央公論新社, (2019年)
・熊倉功夫「『型』を作って『易行』にする 『型』を学んで『守・破・離』を究める」『Works』100号 リクルートワークス研究所(2010年)
・西岡常一,小川三夫,塩野米松『木のいのち木のこころ―天・地・人』新潮社(2005年)

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