良いものはよい、悪いものは悪い、とのべる信念と見識は誰のためにあるのか
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レッスンにしても、批評するにしても、自分にとって目標とするけれど、遙か彼方にいる人がいます。
音楽評論家の吉田秀和さん(1913~2012)です。
吉田さんは、広い視野と教養、見識を持って、音楽評論という枠を超える芸術的な批評を行っていました。
83年に、伝説的存在であり、ピアノの神様とも言われるホロヴィッツが初来日したとき「ひびの入った骨董品」と評価したのは有名です。
しかし、それに対してホロヴィッツも86年に再来日して素晴らしい演奏をしてみせたというのですから、ホロヴィッツも偉いですが、吉田さんの批評はホロヴィッツを納得させるだけの重みがありました。
また、最初日本では「異端」と思われていた小澤征爾さんに対して、一環して高評価していたのも吉田さんでした。
権威に対して恐れることなく、良いものはよい、悪いものは悪い、とのべる信念と見識。
私は、この吉田さんの批評から、「その批評を誰に対して届けたいか」、との強い思いが伝わってきます。
それは一般の音楽ファンです。
その信頼性は、クラシックが一般になじみがなかった日本でより大きな影響力を持つことになるのです。
そのファンに対して、権威に負けておべっかを使うようなことがあれば、ファンを裏切ることになります。
普通ならば、良くないと思ったものでも、権威を思うとつい筆が鈍ります。
しかし、そこまで書き切るのが本物のプロの仕事ではないかと思うのです。
私にとって、業界は違うところに行っておりますが、常に基本に立ち返り、勇気をいただける方です。
頂は遙か彼方にありますが、見識を広め、感性を磨き、人間力を深めていく日々を重ねなければと思わされます。
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