夏目三久さん、海老蔵さん、天性の声はどこからきているのか
私が学生時代、他校から来ている指揮者の方から「うちの大学にさ、すごい天才がいるのよ」と言う話を聞き、コンサートに出るというので聞きに行ったことがあります。
学生ではあったのですが、留年に留年を重ね、20代半ばだったと思います。
若くして人生経験を重ねたような臈長けた表現と、爆発的な激しいパッションは、聴くものを魅了するばかりか、本人自身も自分がどこに行ってしまうかわからないくらいエキサイティングしてしまうほどで、クラシックにも関わらず、聴いていてヒヤヒヤしっぱなしのスリリングな演奏でした。
今までの日本の演奏家ではあり得ないほど、人を夢中にさせる悪魔のような個性と感性を備えている、生まれ持っての表現者だと確信しました。
その指揮者が言うには「天才は天才なんだけど、私生活はめちゃくちゃなんだ。宵越しの金は持たない主義で、仕送りがあるとすぐ使っちゃう。学費で遊びにいっちゃうから。でも音楽は凄いんだよね。」という話なのです。
確かに、天才モーツァルトも、ギャラが入るとすぐに盛大に使ってしまうタイプでした。
モーツァルトはクラシックの作曲家にも関わらず、オペラが当たっていたことから大変な収入だったので、豪遊は度を超して行ったと言います。家の一階にあった酒屋はモーツァルト専属の酒屋さんだったほどです。
このような極端なやんちゃぶりやクレイジーさは、常人からすると理解を超えているものでしょう。
じつは生まれ持った天才性とは、極端から極端にブレることで、バランスをとっているものなのです。
天才性が凄ければ凄いほど、その逆へふれる振り幅も大きいものなのです。
最近、タレントでフリーアナウンサーの夏目三久さんをみて、この方もやはり天性の方だと思わされました。
その声、話し方、品格、そして、もっとも凄いのは、そのときの状況に合わせて声のトーンや話し方を自然に変えているところです。女性も低い声でしっかりと話しが出来るようになると説得力が出てきます。
若くして、震災のニュースを読むときは、低く落ち着いた声で、バラエティーの時は明るく軽い声でと、まったく違和感なく、その人格になりきっています。
自分の中にある様々な人格を自然に出し入れできる天性の話し手だと思いました。
夏目さん、今は大成功されていますが、数年前スキャンダルが発覚し、仕事がなくなり、テレビ局をクビになったりして苦労されています。
こういうタイプの方は、ある程度発散していかないと、本来持っている光り輝く物が出てきません。
もちろん悪いことをして良いとは言えませんが、凡人からすると、少しくらいのことはもっと大きな目でみてあげて、この才能こそ愛でるべきではないかと私は思わされます。
歌舞伎役者の海老蔵さんもそうです。
舞台での光り輝く姿。
海老蔵さんはなんと言ってもあの声がすごい。
浪々と響きながら鋼のような芯があり、経営者こそ参考にしていただきたい声です。
海老蔵さんも厳しい稽古こそあれ、やはり自分の中に持っている多様な人格の可能性を追求し続けている方なのだと思わされます。
しかし、やはり、あの社会問題にまでなった事件を見ても、相当なやんちゃっぷりです。
冒頭のピアニスト、今はどうなっておられるのかと思い聴かせていただいたところ、こちらはかなり落ち着いて来られた様子でした。
やはり、大人になれば社会的に安定していかなければならないこともあるでしょう。当然のことです。
しかしそのとき、天性のものを一生涯輝かせ続けることの難しさを心から感じました。
そして、周囲の社会が、その天才性の貴重な価値に気がつき、もっと大きな目で見守ってあげるくらいの器がほしいと思わされました。