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イスラエルの海に眠る早逝の指揮者ケルテス

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日本の声楽家、岡村喬生さんの「こころの玉手箱」が日本経済新聞に7/22より連載されています。

2014年7月24日の第3回では、共演した指揮者ケルテスのことが書かれていました。

イシュトヴァン・ケルテスはハンガリーのブダペストで生まれ、1955年からブダペスト国立歌劇場の指揮者となりますが、1956年ハンガリー動乱の時に西側に亡命しました。
1973年4月、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団に客演した折、イスラエルのテル・アビブの海岸で遊泳中に高波にさらわれ、43歳という若さで亡くなったのです。

ケルテスが亡くなったとき、岡村さんがその場に同行なさっていました。

    ・・・・(以下引用)・・・・

我々へのイスラエルの人たちの歓待ぶりはたいへんなもので、公演は大成功だった。オフの時間、目の前に広がる地中海で泳ぎたくなるのも人情だろう。ホテルでくつろいでいると、ケルテスが「今から海へ行って泳ぐぞ」と言う。そこでケルテスとポップ、グラマッキ、私の4人はテルアビブの海岸へ下りていった。

遠くに黒い雲が見える。看板には「遊泳禁止」と書いてある。ケルテスは海に入るとあっという間に沖に流された。歌を引き立てる指揮者として才能が世界に知られていた43歳の、あまりにあっけない死だった。
その後の公演は合唱指揮者が代行した。泣きじゃくる女性歌手2人を慰めるのに苦慮した。

    ・・・・(以上引用)・・・・

ケルテスの演奏では、ドボルザーク作曲交響曲第九番作品95「新世界より」が圧倒的な素晴らしさです。

ドボルザークは、チェコスロバキア出身の作曲家。晩年、ニューヨーク音楽院の院長に招かれ、アメリカに渡りました。機械文明の最先端にあったアメリカはドボルザークには合わず、ホームシックになってしまうのです。そんなとき、黒人の歌う黒人民謡を耳にし、チェコの民謡に似ていることに気がつきインスピレーションを受けます。そして、母国に対する思いを込めて書かれたのがこの「新世界」なのです。

リンク→ケルテス指揮 ドボルザーク作曲交響曲第九番作品95「新世界より」第一楽章

岡村さんが「歌を引き立てる指揮者」と評しておられますが、歌に対する感性の鋭さを感じます。オーケストラの作品である「新世界」でも、旋律を思い切りロマンティクに歌わせて、時にはテンポを大きく落とし、ドボルザーク独特の情感を見事に生かした演奏となっています。ケルテスの棒に見事についていくウィーン・フィルも素晴らしい。

ハンガリーを亡命したケルテスの母国に対する思いが、ドボルザークに対する深い共感につながっているように感じられました。

機会ありましたら、ぜひケルテスの「新世界」を聴いてみてください。

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