知らないからこそ出来る事がある プロ経営者の役割とは
最近、「プロ経営者」と呼ばれ、社外から社長をスカウトする企業が目につきます。
サントリーホールディングスの新浪剛史社長、ベネッセホールディングスの原田泳幸会長兼社長、資生堂の魚谷雅彦社長、LIXILグループの藤森義明社長兼最高経営責任者、カルビーの松本晃会長兼最高経営責任者などがすぐに思い浮かびます。
なぜこのような例が増えているのでしょうか?
2014年7月7日に本経済新聞「社長に外部人材、狙いは?」という記事に特集されていました。
・国内市場は少子高齢化で今後縮小傾向。グローバル化を担える人材が少ない。
・社内の生え抜き組とは異なる視点で経営を客観視できるのも強みとなる
・「ムラ社会」の文化でも2つの理由をクリアすれば上手くいく
1、「この人なら」の納得感
2、後ろ盾の存在がいて社内ににらみを利かせる
そして、もう一つの理由として、日本では経営者を育てる仕組みが企業にないとのことでした。
米国GEのイメルト会長兼最高経営責任者は医療機器事業で実績をあげ、45歳でGEのCEOになったのです。
日本では、横並びで昇進し経営に携わるのは50歳以降。これでは勘が磨かれません。
私はオーケストラの指揮者のことを思い出していました。
指揮者でも、若いうちは、なかなか本物のオーケストラを振る機会に恵まれません。
ピアノ2台を相手にやっているだけでは、100人のオーケストラとは音の立ち上がりの時間も違いますし、いきなり指揮することは難しいのです。
以前お仕事をさせていただいていた指揮者の先生は「小澤征爾がうらやましかった」と良くおっしゃっていました。小澤征爾さんは、学生時代から桐朋学園のオーケストラを振って練習できたからです。
「僕は、ピアノのオーケストラ版でレッスンしていた。いきなりデビューがプロのオーケストラだったので、指揮が合わない。ピアノは指揮と同時に音が出る。でもオーケストラは指揮の後に音が出る。ピアノと同じように振るとリハーサルでオーケストラがどんどん遅くなるんだよ。悔しくて帰りはまっすぐ家に帰れず山手線をぐるぐる回っていた。」
他にも、実際のオーケストラを振ると知らないことだらけだったと言います。
若いうちに経験したことは、身体が覚えて勘が磨かれます。
年齢を重ねてから身に付かないこともたくさんあるのです。
そういう指揮者が世界のオーケストラを渡り歩いて切磋琢磨し、さらに育っていきます。
今後は日本のビジネス界でも、早いうちから場数を踏んで、企業から企業へを渡り歩くよう優秀なプロの経営者が増えてくるということなのでしょうか。
ただし、最近、外部人材として社長になり「プロ経営者」と呼ばれる、ある社長が
「私は『プロ経営者』と呼ばれるのは好きではない。生え抜きでも、素晴らしい経営者はたくさんいらっしゃる」
とおっしゃっていた言葉が心に残っています。
私は、外部人材の良い面は「知らないから思い切って出来る事がある」ということではないかと思っています。
大胆さと、緻密さと、しつこさを持って、ご活躍いただきたいと願っています。