相手の懐に飛び込まなくては人は動かない
完全トップダウン型のセブンイレブン鈴木敏文さんに対して対象的なのが、サーバント型アプローチを行っているローソンの新浪剛史さん。
ローソンの作り直しの10年を書いた本「個を動かす」では、徹底してセブンイレブンとは違ったやり方を貫こうとする経営方針が書かれていました。と同時に、あらためて新浪さんの経営に対するビジョンや人柄が感じられました。
本の中の新浪さんは、本当に完璧な人物として描かれています。
しかし、これを読みながら、以前、NHKプロフェッショナルの流儀に出演され、生身をさらけだして語っておられた新浪さんを思い出していました。
新浪さんも、三菱商事がからローソンの社長になったばかりの頃は、完全なトップダウン型だったのだそうです。
初めは、しょっちゅう部下の人たちを怒鳴りつけていた。
しかしあるとき、志を共にしている、それこそ寝食を共にした三菱商事から一緒に来た信頼している役員に「何を考えているのか全く分からない。もっと相手の立場に立って考えてほしい」と指摘され、「自分は裸の王様だった」「傲慢そのものだった」と気がつくのです。「社長を辞めよう」とまで思うほどショックを受けられます。
そのとき思い出したのが、港での荷揚げ会社を営んでいた父親の姿でした。
毎晩のように作業員たちとお酒を飲んでいた父親を格好悪いと思っていたのだそうです。しかし、そのお父さんが「相手の懐に飛び込まなければ人は動かない」と教えてくれたということを思い出しました。
それから、新浪さんは全国の店舗に直接出向き、現場に飛びこんでいくことを信条とするようになったと言います。
2006年と、ずいぶん前の放送であるにも関わらず、私がよく覚えているのは、新浪さんが「ぶれないこと」そして「社員が見ている」と言っていた事です。
ぶれない事は難しい。いろいろなことを言う人たちがいて、迷うこともある。でも一度決めたことはぶれない。「失敗するかもしれない。怖いです。」と、パーフェクトに見える新浪さんでも迷いを持たれているのです。
だから「トップは孤独だ」とおっしゃいます。
あの強い意志の力を感じさせるまなざしは、その迷いや孤独を乗り越えたところにあるのですね。
同じコンビニエンスストアのセブンイレブンの真似は絶対にしない方針で、ナチュラルローソンなど新たなコンセプトの店舗も増やし、看板の色も変えて、今ではその戦略も定着した感があります。
今は、同じ慶応のラグビー部出身でもあり、元ファーストリテイリングの玉塚 元一さんに引き継がれています。
新浪さんの次なる夢は何でしょうか。
今後の活躍に注目しています。