なぜ理想の上司に巡り会えないのかと嘆く前に
「こんな才能もないバカな人たちに出来るわけない。」
裏ではそう言いながら、アマチュアにはとてもウケがよく人気のあった指揮者がいらっしゃいました。
実際の指導をご一緒させていただくと、勘所もよく、メンバーを楽しませながら指導していきます。
プロだなあ、と思いました。
指導は上手なのですが、不思議なことに、その指導者が行くと何年経ってもメンバーがあまり良くならないのです。
それは、常に線引きをし、「出来るわけがない」という自己限定をしながら指導をしているので、可能性が広がらないのだと思いました。
しかし、その方を責めることはできません。
成長とは、痛みが伴います。
相手の可能性を信じて、「言うべき事を、言うべきタイミングを逃さず言う」ことをすると、「楽しくやれればいい」「ついでに上手になれれば良い」と思っている相手の期待には応えられないことになります。
相手が何をほしがっているのか、きちんと把握した上で仕事をしているのです。
その意味で、私は、その指導者をプロだと思いました。
私は、心から自分の成長を支援してくださった方々がいらしたからこそ、今の自分があると思っています。
私が腱鞘炎で何もできなくなったとき、私の師匠だけはずっと信じて待っていてくださいました。このときほど師匠の有り難さを思ったことはありません。
今でも、どのくらい成長できているか、支援してくださった方々に応えられているか分かりませんが、自分の貴重な人生を使い、そのご恩を一人でも多くの方に返していきたいと願っています。
だからこそ、どうしても人の可能性を信じてしまいたくなります。
「押しては引いて、引いては押して」と、辛抱の連続ですが、ダサくても、不器用でも、何としてでも成長してもらいたいと思ってしまうのは、私を指導してくださった方々との原体験があるからです。人によっては「この人はウマがあわないなあ」と思う人もいますが、そういう人でも、一度レッスンの時間が始まれば、すっかり忘れてしまい区別なく熱が入ってしまいます。
もし私が、その指導者の部下であったり、メンバーであったりしたら、表面は楽しいことを言っていても、裏では「この人は可能がないから」と思われているとしたら、とても寂しいと思います。
もちろん、私を指導してくださった方々が皆さん完璧であったわけがありません。
マイナスな部分も持っておられました。
でも、「可能性を信じる」この一点が感じられたからこそ、良いご縁が続いてきたのだと思っています。
4月23日日本経済新聞に「理想の上司ベストテン」が掲載されていました。
やはり、第一位の天海祐希さんと二位の江角マキコさんは不動ですね。
二人に共通することがあります。豊かに響く低い声を持っていることです。
なぜ低い声か?
それは、低い声で話すと、言っている言葉が真実性を帯び、「信じる思い」が伝わりやすく、部下から信頼感を得やすいのです。
もし彼女たちに「あなたは出来る!」と言われたら、奮い立たずにはいられません。
信じる思いがあったとしても、甲高い声だとどうしても伝わりにくいので損をしてしまいます。だから、上司で伝える側も、本当に信じる思いがあるのであれば、ぜひ、よく通る低い声で伝えるべきです。
そして、今、指導者や上司との関係で悩んでいる側の方に伝えたいのは、「この人から信じる思いが伝わってくるか」を感じてほしいと思います。
人生を切り拓くのは、人とのご縁です。
表面だけで判断して、良いご縁を自分から手放さないようにと願っています。