オルタナティブ・ブログ > 大人の成長研究所 >

ライフワークとしての学びを考えます。

お金を持っている者の強さ

»

最近、谷崎潤一郎の「小さな王国」を読みました。

ある田舎の小学校に訳あって都会で教鞭をとっていたベテラン教師、貝島先生が赴任します。
そこに、沼倉という小学生が転校してきました。
沼倉は、特に勉強が出来るわけでもない、ケンカが強いわけでもない、容姿が良いわけでもありません。
しかし、転校してきて早々、周囲の子供たちを牛耳り始めます。
ガキ大将だった子供も、級長も、裕福な家の子も、みんな沼倉の言いなりとなって、しかも恐れられている節さえみられるのです。

沼倉はクラスの中に「沼倉王国」を作り、王国だけに通用する独自の通貨を発行していました。沼倉は大統領に就任し、クラスメートを大臣や側近に任命します。生徒一人一人は階級があり、大統領からその通貨で給料を受取るのです。そのお金でお互いが好きなものを買ったり、お金を増やしたりしていました。金持ちの子も、貧乏な子も平等にモノやサービスが行き渡り、その交易を楽しむようになっていったのです。

真面目な貝島先生は、王国の存在に気がつき、子供たちのそのとんでもない「ゲーム」をやめさせようとします。
しかし、その貝島先生も、あるとき気がつかないうちにその王国の通貨を持ち、王国の国民に入ってしまっていたのです。

谷崎純一郎が生まれたのは明治14年。

現代にも通用するような内容の小説で内心ゾッとさせられました。

そして、子供の世界で行っていることが、大人の世界でも平然と行われているということです。

最近も、独自のルールでマネービジネスを行っていた事件が世間を騒がせましたが、この小説を彷彿とさせられ、つい読んでしまいました。

そして、感慨深かったのは、子供の世界でも共通して、お金を持っているものが強いというルールです。

私が、以前あるNPOの幹部を務めさせていただいているときに、経営者の方から「お金のことは綺麗にオープンに。管理は特に慎重にしなさい」とアドバイスいただいたことがあります。それは本当に正しかったと、やっているうちに身を以て知ることになりました。

しかし、谷崎潤一郎の文章の美しさにはあらためてほれぼれとしてしまいました。
このような文章を書く作家が日本には存在していたということですね。また他の作品も再読してみたいと思っています。

Comment(0)