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成熟社会の人々 私の「マイルドヤンキー」体験

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私が、最初にピアノのレッスンを開始したのは高校生のとき。場所は東京の世田谷区で、田園都市線の用賀と桜新町の中間くらいの場所、馬事公苑のそばでした。

有名演奏家によるコンサートのチケット代はかなり高価ですし、お小遣いでは足りません。親にお願いするのもだんだん申し訳なく思えてきたので、自宅で近所の子供たちをレッスンを始めました。

レッスンにいらっしゃるお母様方が素晴らしい方ばかりで、有り難いことに口コミをしてくださり、学生のうちに生徒の人数はかなり増えてしまいました。学業がおろそかにならない程度にお教えしていたほどです。
おかげさまで卒業してもなんとか困らないほどになっていました。地元の区立学校、有名私立の小中学校の子供たちや、外国人向けのスクールがありましたので、大使館関係の方々、また帰国子女の子供たちなどにレッスンをしていました。

子供さんたちの特徴は、「本当に良く出来た子」ばかりという印象です。
小さい頃から人に感謝する気持ちを持っており「有り難う」という言葉が素直に自然に出てくる。レッスンのお行儀が良い。他人の悪口を言わない。向上心もある。夏休みはハワイやグアム、沖縄などへ家族旅行。冬休みはスキー学校。場所柄、乗馬をやっている子も多かったです。
そして、尊敬する人は学校の先生とご両親。
ある子に「将来は何になりたいの?」と聞くと「お父さんやお母さんのようになりたいです」と言うのです。
ピアノのレッスンをしていると親御さんとお会いする機会も多く、ご両親がやはり素敵で、素晴らしいなあと思えました。デキの悪い私のほうが勉強になってしまうほどでした。

数年後。
ご縁あって、神奈川県大和市というところに引っ越しました。
ここには3年ほど住むことになります。

場所が少し不便でしたので、都心までは2時間弱かかります。
都心に出るお仕事や用事がありましたので、多少の不便を感じていました。
ただ、のんびり川沿いを歩いて徒歩20分少しのところに「グランベリーモール」というアウトレットがありましたので、世田谷にはなかった楽しみがありました。仕事などがない平日に「まったり」するのは居心地が良かったのです。駐車場が大きく便利でしたので徒歩だけでなく車でも頻繁に出かけていました。世田谷にいるころは全く使わなかった自動車免許が役立ったのも大和市です。荷物がつめて楽なので、当時はトヨタのRAV4という車を愛用していました。

大和市に住み始めて早速ピアノレッスンの生徒募集を始めました。

そうすると、以前とは様子が違うのです。

子供たちは可愛いし、親御さんもとても良い方ばかりです。そして、とても子煩悩。子供さんたちのファッションはオシャレで、まるでアイドルグループがテレビからそのまま抜け出してきたようです。そして、みんなディズニーランドが大好き。モーツァルトやベートーヴェンよりディズニーの曲を喜んで弾きたがります。

そして、都心でレッスンしている方々と合同で発表会をすると、親御さんたちがなぜか居心地悪そうで「私たち、場違いな気がするー」と照れ笑いなさり「東京は遠いし、ウチら地元で出来ないでしょうか?」とおっしゃるのです。
近くはないけれど、遠いほどではないような気がします。でも、高級で響きの良いホールで良い楽器が弾けるし、喜んでおられると思っていました。

もしかしたらお友達をよびにくいからかな?と思いました。
そうお尋ねすると「そういうことでもない」ようです。
よくよく聞いてみると「とにかくあまり都心には出たくない」「出来れば地元でやりたい。」「友達家族だけと盛り上がりたい」という強い思いを感じました。

大和市には3年ほどのご縁でしたが、そのときの経験は今でも心に残っています。

そして最近、原田曜平さんの著書「ヤンキー経済」という本に出会いました。

この本を読むと、大和市での経験が納得がいくような気がしました。

「マイルドヤンキー」という分け方が良いか悪いかは別として、保守的な地元志向が細やかに書かれています。

・「仲間」「絆」がキーワード。EXILEがお手本。
・小中学校からの友達との関係を永遠に続けたい。
・家族同士のつきあいが何よりも大事。
・地元のイオンモールにいけば何でもそろうし満足。
・車はアルファードかエルグラントが欲しい。友達をたくさん乗せることができるから車は大きければ大きいほど良い。

この本の中で一番印象的だったのは、本のあとがきにある、原田さんが中学生の頃の原体験でした。

     ・・・・・(以下引用)・・・・・

家族旅行でイタリアのベネチアを訪れたときの思い出話です。ゴンドラに乗って観光地巡りをしているときに、ふとゴンドラを漕いでいる青年を見て当時の私は疑問を抱きました。ゴンドラは毎日同じ決まったルートを行き来している。まだ若い青年が、同じように続く毎日に退屈を感じていないんだろうか?今から考えると、中学生のくせに大変なマセガキだったように思いますが、疑問を感じると尋ねずにはいられない性格なので、商社に勤めていた父親の通訳を介して、彼にこの疑問をぶつけてみました。すると青年は、何でそんなくだらないことを聞くんだよ、といった風に、「すごく幸せに決まってるじゃないか。僕のおじいちゃんもお父さんも同じ仕事をしていたんだよ」と笑顔で答えました。

     ・・・・・(以上引用)・・・・・

日本は戦後、高度成長期に入り、海外に進出し、企業に就職するのが当たり前、になってきた世の中です。しかし、その前は、皆さん普通に地元で家業を継いだり、地元で仕事をしている人がほとんどでした。

日本も、ヨーロッパのように、今では時代が成熟し、階層化が進み、低成長期に入っています。変化しないことに満足感を持つメンタリティ。まるで歴史が成長しながらも繰り返すように、この本にある「マイルドヤンキー」という形で現れているような気がしました。

懐かしくも新しい「幸せの形」がここにあるように思えました。

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