時代を越えて夢の競演
ショパンの「華麗なるワルツ」ヘ長調作品34-3。
別名「子猫のワルツ」ともいわれ、親しまれている名曲です。
この作品といえば、ロシアのピアニスト、スタニスラフ・ブーニンでしょう。
ブーニンの超高速演奏は、ワルシャワのショパンコンクールでも話題になり、曲の合間では拍手しないコンクールで、聴衆が感激して拍手したのは有名です。
★ショパンの「華麗なるワルツ」ヘ長調作品34-3(スタニスラフ・ブーニン)→リンク
もう、やりたい放題。
鍵盤をひっかくようなタッチで茶目っ気たっぷりだったかと思うと、しっとりとしなやかなタッチでしなを作り甘えるような表現を見せたり、頬をなでる羽毛のような音色で魅惑したり、クルクルとまさに「猫の目のように」表情が変わり、息つく暇もありません。
クラシックのオーソドックスな演奏からはかけ離れた表現ですが、この動画を見るたびに、「音楽とは楽しんでいいんだよ」という当時19歳だった(まったくそう見えませんが・・・)天衣無縫な青年ブーニンの声が聴こえてきそうです。
この演奏、審査においては伝統を重んじるショパンコンクールで物議を醸し出すという伝説をつくることになりましたが、他のコンテスタントとは結局は圧倒的な差をつけての優勝でした。審査員もなかなか見る目があると思います。
ところで、ブーニンの祖父は、モスクワ音楽院の名教授で、巨匠リヒテルの先生でもあったゲンリフ・ネイガウスです。
リヒテルはほとんど師匠についていないのですが、このネイガウスには短期間師事しています。
ブーニンの演奏を聴いたあとに、これもまたロシアのピアニスト、リヒテルの演奏を聴くと「本物とはこのようなものか」と度肝を抜かれます。
リヒテルは、一般的なショパンの演奏でよくあるナヨナヨとした表現とは一切無縁の真剣勝負。
すべてがスケールが大きく無骨。そして強靭な意志と激しいパッションにあふれている。ここぞというところで猪突猛進のばく進ぶりもすごい。ワルツとは上流階級の上品なダンスとい概念を覆してしまうほどの剛胆さなのです。
しかし、節回しの上手さや、心をくすぐるような音色の多彩さも持ち合わせていて、決してスケールが大きいだけではないところがリヒテルの素晴らしさ。
昔はこんな豪傑がいたのですね。
それでは、リヒテルの演奏を聴いてみましょうか。
下記のリンクの動画では12:54からお聴きください。
★ショパンの「華麗なるワルツ」ヘ長調作品34-3(リヒテル)→リンク
ブーニンに負けず劣らずの高速演奏ですが、重量級のすごみはリヒテルの方が上かもしれません。14:38にみられるワルツという小品とは思えない巨大な「間」は息をのみます。
この競演に、きっとネイガウスも天国から目を細めて見ていたのではないかと思います。