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人生最後の美しい瞬間 辞世の句を聴いて

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小林秀雄作曲の「落葉松(からまつ)」が好きです。
 
心を締め付けられるような野上彰の詩に、小林秀雄の日本的な情緒と親しみやすく美しい旋律が伴った芸術作品だと思います。
 
このような素晴らしい「落葉松」なのですが、、この歌を芸術的に聞かせるのは意外に難しく、上手に演奏すればするほど、あざとく、通俗的に聴こえてしまう、という点が難しい作品です。
 
だから私は、今まで、どんな演奏を聴いても満足できませんでした。
 
しかし、ある一人のテノール歌手の演奏を聴いて感動を覚えたのです。
 
テノール歌手、本田武久さんの演奏。
 
2008年12月22日、アトリオン音楽ホール(秋田市)で行われたプレミアム・コンサート2008より「落葉松」を歌う動画がyoutubeにアップされていたのを聴き、心が釘付けになりました。
 
演奏はこちら→本田武久さんの演奏:小林秀雄「落葉松」
 
この作品をストレートに、何の気負いもなく、朗々と純粋そのものに歌い上げている。この演奏を聴くと、この方はどのようにしてこういった境地に立たれたのか、とさえ思っていました。彼の演奏を聴いたら、もう他の演奏は聴けない。
 
ピアノ伴奏の鳥井俊之さんも、デリケートかつ柔らかい音色と、常に歌にぴったりと寄り添った表現で、出しゃばらず、だからといって引きすぎず、物足りなさは微塵もない。間奏部分では、歌手への深い共感を込めながらも、思い入れたっぷりの表現力で自己主張もされて、本当に素晴らしい。
 
歌とピアノが、まさに極上のアンサンブルを奏でている演奏だったのです。
 
この本田さんの演奏は、ことあるごとに繰り返し聞いていたのですが、どのような方なのかとつい昨日調べてみたところ、実は昨年の2012年11月末に、軟部組織に発生する悪性非上皮性腫瘍(肉腫)という難病のため、41歳という若さですでになくなっておられたのが分かったのです。
 
この歌を演奏した2008年12月は、すでに病が告知されていました。
いったいどのようなお気持ちで歌われたのでしょうか。
そして今更ながら、この透明感、このひたすらに上を見ているような歌は、本田さんの生き様そのものだったのだということをあらためて思い知りました。
 
ここ数年は転移を繰り返し、最後は、歌手の命でもある舌さえも使えなくなった本田さん。
ホスピスでの入院生活を送り、ご友人の手を握って安らかに永遠の眠りにつかれたとのことです。
 
入院中に書かれた本田さんのブログ Takehisa Honda Diary を読むと、辛い症状から「あと2ヶ月か3ヶ月で死ねたらいいのに」と書かれておられ、しかし、残された長くない時間を精一杯生きられた。
神様はなぜ、このような素晴らしい芸術家を若くしてお引き上げになるのか。
 
白鳥は、最後に一声、一番美しい声で鳴くといいます。
 
この、まさに「辞世の句」とも言えるような演奏。
 
ぜひ一人でも多くの方に聴いていただければと思い書かせていただきました。
 

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