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私を先生と呼ばないでください

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私の人生の師とまで尊敬する経営者で大学教授でもあるT先生は、約11年前初めて教壇に立たれたときに「私のことを先生と呼ばないでください。Tさんと呼んでください」とビジネススクールの生徒たちにおっしゃったそうです。
 
しかし今、T先生は、皆さんにきちんと「先生」と呼ばれています。
少なくとも私が先生とのご縁をいただくようになってからは「さん付け」で呼んでください、という言葉は伺ったことがありません。どこかで「先生」と呼ばれることに理由を見いだされたのだと想像しています。
現在T先生は、識者として日本中枢の重要なポジションにおられ、日本の将来を左右するような立場にまでなられています。しかし相変わらず謙虚で、最近の講演では「私はこのような場に立つ人間ではないと思っています」とおっしゃっていたのが印象にのこっています。
 
2012年8月31日、世界的に活躍する指揮者の小澤征爾さんと作家の村上春樹さんの共著「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮社刊)が新たな世界像を提示したノンフィクション作品に贈られる第11回「小林秀雄賞」(新潮文芸振興会主催)を受賞されました。
音楽の世界で行われることは人類にとって普遍的なことではないかと感じさせる、音楽に詳しくない方でも共感を覚えるような素晴らしい本だと思います。
今日は、以下、その本の中から興味深い内容をご紹介いたします。
 
◆レナード・バーンスタインの場合
 
小澤征爾さんは若い頃、アメリカの指揮者バーンスタインの下でアシスタント指揮者を務められた方です。バーンスタインは、アシスタントが先生だと思っていても「君たちは僕のコリーグ(同僚)だ、自分は先生ではないと言い、『グッド・アメリカン』になろうしていたと書かれています。
 
小澤「オーケストラに対しても同じような姿勢でやるものだから、仕込むってことがなかなかできません。ひとつ仕込むのに、いちいち手間がかかる。またそういう平等主義みたいなのを通していくと、指揮者が楽団員に対して怒るんじゃなくて、楽団員が指揮者に対して怒って、くってかかるような事態も出てきます。僕はそういうのを何度か目にしてきたことがある。冗談半分とかそういうのではなく、真剣に正面から口答えする。普通のオーケストラではまずありえないことです。(中略)レニー、レニー、とファーストネームで呼ばれていました。僕もセイジ、セイジって呼ばれますけど、彼の場合はずっと徹底していた。中には勘違いする人もいて『ヘイ、レニーそこは違うだろう』みたいなことを言い出す楽団員も出てくる。(中略)そう、音楽に統一性がなくなってくるんです。」
 
小澤「レニーの場合はね、練習中にみんながおしゃべりをするんです。それは良くないなと僕はずっと思っていました。だからボストン(アメリカで小澤征爾さんが音楽監督を務められたオーケストラ)では練習中に誰かがおしゃべりするとずっとそちらを見ていました。すると私語はやみます。でもレニーはそれをしなかった」
 
◆ヘルベルト・フォン・カラヤンの場合
 
小澤さんはバーンスタインの後、ドイツの名門ベルリン・フィルの指揮者、カラヤンの下でも勉強を重ねた経験を持ちます。
 
村上「カラヤン先生の場合はぜんぜんそうではなかった?」
小澤「先生は他人の意見なんてものはまず聞きません。もし自分の求めている音と、オーケストラの出す音とが違っていたら、何があろうともオーケストラの方が悪い。望む音が出てくるまで何度でもやらせる。」
 
小澤「(バーンスタインと比較し楽団員の私語について)僕はカラヤン先生はそういうところはびしっとおさえていると思っていたんです。(中略)楽団(ベルリン・フィル)の方ももうひとつ気持ちが乗らない。僕はそのときホールで練習を聴いていたんですが、そうしたらね、みんがしゃべるんだ。先生が演奏を止めて何か注意をしている間、みんなぼそぼそとおしゃべりしている。すると、先生が僕の方に向かってでっかい声で言うんですよ。『なあセイジ。こんな練習中に騒がしいオーケストラを君は今まで見たことがあるか?』ってね(笑)。」
村上「その頃には統率力がいくぶん落ちていたかもしれないですね。ベルリン・フィルとはいろいろとトラブルもあったみたいだし」
小澤「一番最後は仲直りして好転したんですけど。その前は関係がちょっと悪かったね」 

◆統率力とは
 
オーケストラとは一人一人が一過言持つ100人以上のプロ集団です。そこを音楽としてまとめあげる指揮者とは並々ならぬ統率力が要求されます。
 
小澤征爾さんの言うとおり、バーンスタインはあまり実務的な指導が出来なかったようです。
だから、バーンスタインの演奏はムラが多いと言われています。残された録音でも「バーンスタインとしてはいまひとつ」と思うものも結構あります。
もちろん、世界最高峰のトレーニングをされたウィーン・フィルや、オランダのアムステルダム・コンセルトヘボウを振れば神懸かったような演奏を繰り広げる。出来上がったところに招待されて、大暴れしても壊れないようなところで思い切り天才性を発揮するタイプであったのでしょう。
 
カラヤンは、オーケストラのトレーニングが天才的に上手かったそうです。しかし、そこには形から入るようなものがあったと思います。例えば、きちんと「マエストロ」「先生」と呼ばせるようなところも私は大変に大事なのではないかと思っています。
 
私は合唱団で、もし音大を出たばかりの指揮者やピアニストにいらしていただいても、「先生」と皆さんに呼んでいただきます。
音楽という自由なものでも「形」が大事ではないかと思っているからです。人は、真剣に話を聞こうとして姿勢を崩す人はいません。正座をすることで、気持ちが話しに集中する。
 
私は「心は形についてくる」のだと思っています。
 
エルピーダメモリの坂本幸雄元社長が、2007年5月8日NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」にご出演なさったとき、ひとつだけ気になっていたことがありました。それは、社員さんに「坂本社長」ではなく、「坂本さん」と呼ぶようにおっしゃっていたことです。それがずっと頭の中にありました。もちろん、だからと言って経営破綻に追い込まれたといっているわけではありません。そこに至るには様々な理由があったのだと思います。
そのとき、ちょうど自分も指導者としての呼ばれ方に悩んでいたところでしたので、よく覚えているのです。
 
統率力とは。
心に矛盾を抱えていたとしても、そこにご縁あって集まった仲間たちの成長を一番に願い決定していく魂の力なのだと思っています。

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2012/04/24 あいつら「フリヨク」がねえな 無名の人になぜそんなすごいことができたのか?

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