自分にしかできない新しい道へ踏み出すためには一つのことにこだわり続けるだけでは深まらない
ある一つのものを追求しようと思ったら、一つのことにこだわり続けるだけでは深まらないと考えています。
それは、いろいろなものに短期間味見するように手を出せばよい、ということを言っているわけではありません。
ただそうは言っても何をしたらいいのか分からない場合があります。
これは逆説的かもしれませんが、一つのことを追求していれば、感覚的に今の自分に何が必要なのか見えてくると思っています。
私はピアノ専門ですが、声楽もやっていると言うと、「ピアノだけでも大変なのにようやるね」と驚かれます。
ピアノで何が一番難しいか。
それは、「レガート」(音をなめらかにつなぐ)です。
そして、豊かなレガートを用いた「カンタービレ」(よく歌って、歌うように演奏すること)です。
そして、音楽にはハーモニーやリズムなどがありますが、人が一番感動するのは「歌」(メロディ)なのです。
ピアノという楽器は、「ポーン」と一つの音を出すと音量はすぐに減衰し始めます。何も気にしないで演奏すれば、ポソポソと途切れたような音楽になり、歌とはかけ離れてしまいます。ピアノで声楽的な「歌心」を表現するのはまさに至難の技。
私はいつか声楽をしなくてはならないと感じました。
それも、ただ趣味程度で習うのではなく、徹底して発声から言葉から、深く掘り下げないとやった意味がないと思いました。
そして、声楽をやり始めて3年以上たったころ、やっとレガート(音をつなげる)の意味が分かってきたような気がしました。
でも、まだ分からないことや出来ないことがたくさんあります。私は、「すぐに役立つ」「簡単に出来る」ということは望んでいません。今やっていることが、将来、自分しかできないような新しい表現に結びつくのではないかと思っています。
そんなことを考えていたら、2012年7月28日日本経済新聞の「知求見聞」に書家の紫舟さんの記事が掲載されていました。
・・・・・(以下引用)・・・・・
和の心を身につけバランス感覚を養うために、様々な日本の伝統美術を積極的に勉強し続けています。知識として身につけるだけではなく、陶芸でも蒔絵でも実際に手を動かして作ってみるのです。
具体的には、京都や奈良の名工と呼ばれる人を訪ねて、一緒に製作をさせていただきます。簡単にはいきません。今ではお会いできる方も増えましたが、駆け出しの頃は「自称書道家」。足しげく通ったり、教えていただいたことをこなしたりすることで信頼関係を築きました。そういう取り組みの成果はすぐに出るものではありません。私は「10年後の創作に生きるかもしれない」くらいの気持ちで、将来の糧になることを信じて勉強をし続けています。
・・・・・(以上引用)・・・・・
仕事とは、技術や表現力、哲学、人間力などの垂直統合なのだと思っています。その方の持つ面のある一点ではなく、垂直統合されたものに人は感動する。そこまでになると誰もがすぐに真似できないような個性の世界に入りるのだと思います。