すっぱい葡萄をみつめる力 「爆笑問題」活躍の後ろに
条件の良い転職をして会社を辞める同僚に対して、表面的には「頑張って」という仲間がいる。
そして、同期が先に出世する。起業して有名になった友人。才能を評価された知人。
「『とんでもないことになればいい』『どうせいつか失敗するにちがいない』『思っているよりたいしたことはない』世間の人は内面ではそう思っていますよ。そういった感情というのは人間であればだれでも持っているものです」
以前、ある尊敬する先生にそう教えていただいたことがあり、反論できない弱い自分がいました。
心の奥底にいるもう一人の自分の、どうにもならない、思うようにならない感情ほど辛いものはありません。これさえなくなれば本当に楽になるのに、と何度思ったことかしれません。
イソップの童話に、狐が木になっている葡萄をとろうとしても届かなくて「あれはどうせすっぱくてまずい葡萄だから食べてなんかやるものか」と言って立ち去る、という話しがありますが、現代の世の中でもすっぱい葡萄は存在するのですね。
2012年8月17日日本経済新聞の「文化」にてタレントの渡辺正行さんの記事が掲載されていました。
渡辺さんは、まだお笑いライブのなかった時代、1986年30歳のときから、若手芸人さんたちの舞台を渋谷のライブハウス「ラ・ママ」で開催し続けています。
・・・・・(以下引用)・・・・・
芸人が変わっていく様子をそばで見られることは本当に楽しい。若いメンバーがもがき苦しみ、新しい笑いを見つけ成長していく。そんな姿、そんな瞬間に立ち会うとゾクゾクする。
爆笑問題もそうだった。初めてのステージで事務所にスカウトされたほどの実力派。ひと目でタレント性を見いだされたのだろう。彼らがコントから漫才へと芸風を切り替えた時は震えた。笑いのスタイルを変えると失敗することが多いが、爆笑問題は違った。ものすごくうけた。私はバックステージで聞いていて興奮した。
・・・・(以上引用)・・・・・
渡辺さんがお笑い新人のためのライブを続けてこられたのは並大抵の苦労ではなかったと思います。
そして、爆笑問題をはじめ、ウッチャンナンチャンやダチョウ倶楽部、オードリーもここで腕を磨いた。そういう舞台を主催した渡辺さんの志は素晴らしいことだと思います。
しかし私は、この記事を読んだとき鳥肌が立ったのは、そのご苦労というより、渡辺さんが若手芸人さんたちの成長を無条件に、祈り、喜んでおられることでした。
しかも「俺が育ててやった」ということを感じさせる言葉はどこにも見当たらず、彼らの成長の瞬間に身震いされておられる。
きっと、しっかりとご自分の気持ちを見つめ、心を調えることが出来ておられるのだと思います。
人間の奥底に存在する感情を押し殺そうとすると、それは余計に噴出してくる。
その気持ちを見つめ、「いや~、まいったよ~」と笑えるくらいに自分をいなせるようになれれば中和されてくるように思えます。
人の成長を心から祈り喜ぶ。
豊穣な人生を生きるほんとうの葡萄はそこにあるのだと信じています。