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ホロヴィッツはひびの入った骨董品

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音楽評論家の吉田秀和さん(1913~2012)が5月22日に亡くなられました。
 
吉田さんは、日本がまだあまりクラシックに馴染みのなかった時代から音楽の批評をしていた方で、日本のクラシック界に大きな影響を与えた方です。
 
2012年5月29日(火)日本経済新聞にてチェロ奏者の堤剛さん執筆で吉田さんの記事が掲載されていましたのでご紹介します。
 

     ・・・・・(以下引用)・・・・・
 
批評でも広い視野を持ち、教養と見識があった。見事な文章力と表現力で、音楽評論の枠を超えて文学の世界にまで入っていたと思う。
 小澤征爾さんが若い頃指揮者を務めるNHK交響楽団との対立した事件があった。東京藝術大学と違って伝統もない桐朋学園から巣立ったこともあり、小澤さんを「異端」ととらえる人も少なからずいる中で。吉田先生は一貫して小澤さんを評価し続けた。
 
83年にピアニストのウラジーミル・ホロヴィッツが初来日した際に、「ひびの入った骨董品」と率直に評価されたのも、吉田先生だからだと思う。一種の伝説になっていたホロヴィッツに対して歯にきぬ着せず言えたのは先生だけだった。86年の再来日では見事な演奏をしてみせたのだから当人にとっては良かったと思う。
 
     ・・・・・(以上引用)・・・・・

権威に対して恐れることなく、良い物はよい、悪いものは悪い、とのべる勇気と見識。
 
今は、専門的な城に閉じこもってしまうような評論が多く、吉田さんのような方はとても貴重な存在だったと思います。
 
吉田さんの評論で気に入っているのは、リヒテルのベートーヴェンについて、です。
リヒテルが弾いた、ベートーヴェン作曲の熱情ソナタは「ベートーヴェンが考えていた想像をはるかに超えた演奏だ」と評論しました。
 
超個性的かつ、アグレッシブでスケールの大きいリヒテルの演奏は賛否両論あるタイプですが、吉田さんの批評は私も同感です。
 
またお一人、大事な方が天に召されました。

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