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ライフワークとしての学びを考えます。

人は分かっていても罠にかかる 意識しながらダメになる

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人をダメにさせたかったら三回以上褒めろ、とよく言われます。
 
褒めて育てることは良いことです。しかし、操作主義や過剰な褒め方はその資質を殺すこともあります。
 
それはなぜでしょうか。
 
「ここはすごく難しいところです。ピアニストのZ氏も失敗したし、上手なOOさんがリサイタルで弾いたときも間違った。あなたは本当に良く弾けますね。」
と、数人の方に何回も言われたころがありました。
 
なんたることか。
それまで一度も失敗したことのないその場所を、一番大事な本番で失敗してしまったのです。
 
褒められて嬉しかったことは確かだったのですが、その言葉が肝心なときにフッと頭をよぎったとたん、指の運びに迷いが出た。
 
これは「自意識の罠」なのだと思いました。
 
野球のピッチャーでも、ノーヒットノーランを目前に、「なぜこんな簡単にうち取れるところでこんな球を投げてしまったのだろう」と思うピッチングをしてしまうことがよくあります。
 
12歳で周囲の大人を差し置いてのコンクール優勝。10代でのデビューを果たしたバイオリニストの千住真理子さんは、天才少女と言われてからが大変でした。
「あなたは天才なの?」「天才らしく弾きなさい」という周囲の叱咤と期待から、それまで天真爛漫に弾いていたのに、自分の音楽を見失ってしまうのです。そして20歳で一度バイオリンを辞めています。
千住さんは挫折を乗り越えて今は素晴らしい音楽家になられていますが、天才と言われた人たちが、その後も順調に成長しているかというと、そうではないケースのほうが多いように感じています。
 
アーサー・ケストラー著「ホロン革命」に、ムカデが上手に足を動かして歩くので、「どのような順番で足を動かして歩くのですか?」とたずねられた瞬間に、ムカデは身動きが取れなくなり餓死してしまうという逸話がのっています。
 
例えば、それが人や虫でない組織の場合。
 
組織を一つの生命体と考えると、トップが考えを伝えたあとに、常に過剰な干渉や操作を加えると、全体が上手く動かない状態になってしまうことがあります。
周囲から期待されて意識するあまり、過度な無理をしてしまうこともあります。
 
そして、トップの立場や指導者は、意図するしないに関わらず、人を自意識の罠にはめてしまっていることがよくあることに気がつかなければならないと思っています。
 
ダメになるとき。
それは、自意識の罠によるものだと考えます。
 
どんなに才能や実力があっても、または運気が巡ってきたとしても、自意識の罠にはまり自滅してしまう。
天才と言われる方でもその罠にはまりやすい。いや、天才と言われるからこそ難しい。
成功すればするほど厳しくなる。
敵は我にあり、と言われる所以はそこあるのではないでしょうか。
 
歩くという動作でさえ、意識しすぎると左右の手足をどちらから出してよいのか分からなくなることがあります。
自意識の罠とはどんな人でも簡単にはまってしまうものなのだと考えます。
 
だから、今まさに、ここで書いている文章も、心から書きたいことを書いているかどうか。いつも問うていかなければならないと思っています。

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