情熱と興奮 そして少しの冷静さを
合唱曲というと、まずはピアノの前奏が盛り上げて、歌が始まるものが多い。
ピアノが雰囲気を作ってくれるので、歌い手も聴き手も音楽に入りやすいし、一番良いのは、歌い手が音の高さをあらかじめ確認できるので安心です。
佐藤眞作曲の混声合唱のための組曲「蔵王」の最初の作品「蔵王賛歌」。これはピアノの前奏がありません。
2012年6月16日、私が運営する合唱団「コール・リバティスト」に、東混(とうこん=東京混声合唱団)のテノール歌手、志村先生をお招きしての練習を行いました。
この日の出だしは、第一曲「蔵王賛歌」から。
雄大な蔵王の雰囲気をイメージさせるフォルティッシモ(とても強く)から、いきなり合唱とピアノが同時に始まります。
志村先生は、「すごい緊張感があります。合唱とピアノが同時に開始する。聴衆の眼前に蔵王の山々がそびえたつようです。こういう曲はあまりありません。だからこそこれが名曲たる所以なのだと思います。」とおっしゃいます。
映画でも、冒頭のシーンで大自然のパノラマ風景がワーッと飛び込んでくるシーンがあると、自然の力に圧倒されて映画にひきずりこまれてしまう、ということがあります。
蔵王は、まさにそれと似た効果を感じます。
丁度一年前、青葉台のフィリアホールにて、東混がこの作品を歌いましたが、私は2階席から行った事もない蔵王の雪山がそびえたつのを見ました。
それほど、迫力のある出だしなのです。
演奏では、ぜひその緊張感を楽しんで歌いたいですね。
この日はもう一曲、蔵王の第七曲「吹雪」の練習をしました。
この作品は、これ以上ないほどの興奮を味わえる作品。
これでもかこれでもかと、追い立てて、盛り立てる。佐藤眞の筆が究極に冴えた最高傑作だと思います。
その一年前の東混の名演はCDにもなっているのですが、ホールにて生演奏で聴いたとき、鳥肌がたち、いつかリバティストでもこの曲を、こんな風に歌えるようになりたい。そう強く願いました。
志村先生は、「この曲は、あまりに作曲家が上手く作っているため、演奏するほうが飲み込まれる。これは第七曲です。「蔵王」の9曲あるうちのまだ7曲目。あと残り2曲もあるんですよ。ここで歌いすぎると『終わって』しまいます。ぜひ、ちょっとの冷静さを!」と言います。
私は、昨年、東混の演奏を聴いて、「悪い意味での冷静さ」を少しも感じさせない、まさに興奮の坩堝にある東混を見ました。いつも冷静沈着な東混でもこんなに爆発して演奏なさることがあるんだ、という驚きと感動。
本当は1割くらいの冷静さは残しておられたのでしょうけれども、さすがプロです。聴衆にはそう感じさせない演奏でした。
これを、アマチュアが下手に真似をすると失敗する可能性があります。
興奮に拍車がかかり、プロのようなテクニックがないので、しっちゃかめっちゃかになってしまうか、ただ乱暴に吠えているだけになってしまうか、逆に「冷静に」と思いすぎてしょんぼりとした音楽になってしまうのです。
やはりこういう作品の演奏は、一流の先生にみてもらって常に微妙な調整をしていただかないと難しいと私は思います。
きっと皆さんは、良い演奏ができると思います。
今日は、情熱的な良い練習をしていただきました。
志村先生有り難うございました。