プレゼンで、スピーチで、黙っていることができるだろうか
あるとき、スピーチの達人が「スピーチで一番大事なことは何か」というお話しされていたのを聞いたことがあります。
もし一つだけあげるとするならば「間」。
一般的に、いかに饒舌に流暢に話すことばかりに目がいってしまいますが、それは言葉を発していない瞬間だというのです。
それも、ただ無意味に空間を作るのではなく、その「間」に力をこめる。
2012年6月2日日本経済新聞の「交遊抄」に女優の梶芽衣子さんの記事が掲載されていました。
梶さんは、映画「曽根崎心中」で、増村保造監督からの度重なるダメ出しに「撮影所が火事になればいいのに」と思うまで追い詰められたといいます。しかし、その映画は大ヒットし、梶さんは多くの映画賞を受賞。
・・・・・(以下引用)・・・・・
「先生、これから俳優を続ける上で何を見ればいいでしょうか」とたずねると「外国の映画はダメだ。歌舞伎を見ろ」とのお返事。その言葉の意味が最近ようやく分かってきた気がする。歌舞伎の間は芝居に通じるのだと。私はその間が出来ていなかったから、何度もダメ出しされたのだろう。
・・・・・(以上引用)・・・・・
ピアノの巨匠リヒテル(1915~1997)は、リスト作曲のソナタを演奏するとき、座ってからゆっくり30数えるといいます。
「聴衆はパニックに陥ります。『いったいどうしたんだ。気分が悪いのか。』そのとき、そのときはじめて、ソを鳴らします。こうして、この音は、望んだとおりに、、まったく不意に鳴るのです。もちろん、そこには一種の芝居があります。しかし私には、演劇的要素というものが、音楽のなかでとても大事なもののように思われます」(『リヒテル』より)
30はかなり長いと思えます。
しかし、その「間」から音楽は始まっている。
聴衆は、予測しなかったその「間」から生まれる音楽に、一気に引きずり込まれることでしょう。
音楽でさえ、ただ良い演奏をするだけではだめなのです。
ただ、「間」は、必ずそこに意味があること、力がこもっていることが必要です。
「間が抜ける」という言葉があります。
ただ意味もなく間をとっているだけでは間をとることにはなりません。
しかし、よどむことなく一定のリズム感で見事に語られるプレゼンが、なぜか眠くなってしまう。
どこも間違えがなく技術的に素晴らしい演奏が、どこか退屈に感じられてしまう。
という経験があるかと思います。
もちろん、そこまでに到達するには努力あってのことなのですが、その次の段階にいける人はなかなかいないように思えます。
実際、慣れないと間をとることは怖いと思います。
しかし私は、それでも、ぜひ間をとることをおすすめします。
その間が、音の無い瞬間が、聴き手の心を引き込むのだと信じています。