出版されているのにどうしても手を入れたくなってしまう 作者の性
歌の歌詞って、何番もあると間違えてしまうことがあると思います。
特に、「同じ言葉が繰り返して少しずつ違う」というのが覚え難いし、混乱しやすいですね。
2012年3月3日合唱団コール・リバティストでマエストロをお招きしての稽古を行いました。(マエストロとは本番を振る指揮者のことです)
この日は、林光さん編曲の「日本抒情歌集」より「椰子の実」「待ちぼうけ」、「海の構図」。ブストのアカペラ作品などを歌いました。
リバティスト定期演奏会は、譜面を暗譜するので、歌詞や音を覚えるのに苦労しています。
覚え難いのは、北原白秋作詞、山田耕筰作曲の「待ちぼうけ」です。
歌詞が5番まであり、「待ちぼうけ~、待ちぼうけ~」の出だしと「木の~根っこ~」で終わるところはすべて一緒。
「待ちぼうけ~」の後は、一番が「ある日せっせと 野良かせぎ」、2番は「しめたこれから 寝て待とか」、3番が「きのう鍬とり 畑仕事」など、各番で少しずつ違うのですよね。
私は、情景描写しながら覚えるようにしています。
農家が愚直に働く姿や、兎が飛び出てくる様子などの情景描写を、映画のようにイメージしながら歌うと覚えやすいです。
あとは何度も歌い込むと、自然と口について出てくるようになります。ただ、本番は魔が差すと言いましょうか。突然分からなくなるという怖いことも起こりますので注意が必要です。
この「待ちぼうけ」は、林光さんが編曲し、東京混声合唱団(東混)というプロの合唱団を自ら指揮、ピアノを弾くという「弾き振り」をしながら演奏した曲です。
林さんはリハーサルのときに、ご自分で書かれた譜面をその場で変更されることでも有名です。
特に「早春賦」などは、演奏会において、現在出版されている楽譜とかなり違うことをなさっていましたね。
作曲者であり、編曲者であり、演奏会の総責任者でもある指揮者という立場であるから、できることなのですが、聴衆の一人としては「今回は何をしてれるのだろう」と、いつも期待していました。
そんな林さんも、先日お亡くなりになってしまい、そういう貴重な演奏会を聴けなくなってしまったのは残念で仕方がありません。
「待ちぼうけ」は、マエストロが東混で林光さんと演奏したとき、13小節と28小節の「木の根っこ」の箇所の音に変更がありました。ソプラノと、テノールと、バスを、44小節と同じ音形で歌うように指示があったそうです。直々のご指示だったそうで、今回はその音形で歌います。
・・・がしかし、さらに覚えにくくなってしまいました。改訂版のほうが音がいいと思いますので、さらに暗譜頑張りましょう。
作曲者というのは、完成されて、楽譜が出版されたとしても、手を入れたくなってしまうタイプが多いかもしれませんね。
ブルックナーなどは、頻繁に改訂していたので、同じ曲でも「原典版」や「ノヴァーク版」などが世に出ていて、演奏会ではどの版なのか明記する必要があるほどです。作者が、時間を経て人間として芸術家としての成長をとげれば、以前より感じ方や見方が変わってくるのも当然だといえます。
本番並びでの練習も開始し、「いよいよ」という気分が盛り上がっています。
今までの思いを響きに乗せて、全員で花を咲かせましょう。
それは、きっと、人生の花ですね。