完成度の高いものに手を加えてはいけない
「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」という花。
秋の11月頃、湿地に群生する血のような色の真っ赤な花。
作曲は山田耕筰で、歌詞は北原白秋というゴールデンコンビによる作品に「曼珠沙華」という歌があります。
2012年2月4日混声合唱暖コール・リバティストに秋島先生をお招きしての稽古がありました。
最近亡くなられた作曲家の林光さんが「曼珠沙華」を合唱用に編曲している作品があります。
林さんは、日本の歌を混声合唱のために「日本抒情歌集」として多数編曲なさっています。
素晴らしい林さんの筆の冴えで、馴染み深い日本の歌が芸術作品の域にまで高められている作品集です。
しかし、この「曼珠沙華」だけは、ピアノ伴奏がオリジナルのままで手を加えていません。
林さんは、お弟子さんである青島広志さんに「これは大変完成度が高いので、手をつけてはいけない」と言われたそうです。
それほど、素晴らしい作品で、音楽研究家によっては、山田耕筰の作品で一番完成度が高いと評価している人もたくさんいるのだそうです。
不気味で独特な雰囲気を放っている作品で、近寄りがたい感じを受けるほどです。
普通の人が演奏するのは容易ではないように思えます。
ただ、山田耕筰は、作品にとても細かい指示を書き込んでいます。
ダイナミクス(強弱)は特に細かく、ニュアンスが目でみて想像できるくらいです。
当時演奏する方にわざわざ電話をして「ここはこうしてください」と伝えていたほどだそうですから、表現にはうるさい方だったのでしょうね。
「演奏が難しそう」と思えるのですが、実は、この山田耕筰の細かい指示通りに歌えば、作品として完成するように出来ています。
それも、「なりきって」思い切りやるのがコツです。
恥ずかしがってやっていると、聴いているこちらまで恥ずかしくなってしまうように感じます。
この日は、先生のご指導もあり、かなり良い雰囲気が出てきました。
ただ、まだ声が合わないところがありました。
「声を合わせるときは皆で聴きあって合わせてください。聴き合ってあわせるときは、自分の声を少しだけ控えることが大事ですね」
と先生はおっしゃいます。
「曼珠沙華」はもともとソリスト(独唱者)の曲なのですが、ちょっと控えるというところが合唱らしいですね。
ぜひ本番の5月13日には、心が震えるような響きを作ってみたいですね。