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ライフワークとしての学びを考えます。

なぜ声楽家寿命が短いのか

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難曲を見事に演奏されれば、それだけで「凄い」と思ってしまいますよね。
 
昨日、音楽マネージャーをしている知人と話していて、気になることがありました。
 
彼は声楽家出身で音楽マネージャーになった人です。当然声楽関係に詳しい人なのですが、若い方の声に対する考え方を心配していました。
 
彼の話によると、「基本的に声楽だけで生活できている人はほとんどいない。最近は、平日派遣社員をして、週末に音楽活動をする方が増えている」のだそうです。
毎年たくさんの声楽家の卵が音大を卒業していますが、そのほとんどは厳しい現実が待ち構えています。
 
夢を持って音楽を続けたい人たちは、コンクールを受けたいという気持ちがあります。
コンクールとは、基本的に「若い才能を発掘する」ことが目的。そのためどうしても年齢制限が低く設定されていて、勝ち抜くためには若いときに無理をして技術的に高度な難曲に挑戦するのです。
 
もちろん、審査する側にも聴く力が求められ、内容を重視して判断する方もいらっしゃいます。しかし、何百人も次から次へと出てくるコンテスタントの一人一人内容を吟味する時間があまりないのが現実です。短い時間で、10人なら10人の審査員のより多数を説得できるような演奏力が必要です。そのため、技巧的なものを聴かせる演奏をしたほうが審査が通りやすい傾向にあることは確かなのです。また、コンクールに通ったとしても、その後さらにハードな演奏会をこなさなければなりません。

声楽家が本当に声が出来てくるのは30歳過ぎてから、とも言われています。声帯はとても繊細な楽器です。まだ身体が出来ていなかったり、正しい発声法が身についていない段階で、酷使したりすればそれだけ負担がかかり、寿命が短くなってしまうというリスクもあります。
 
若いと、柔軟性があるので、勢いや根性で超高音が出てしまったりするものです。
でもそれは必ず無理がかかっていて、正しい発声法ではないのですよね。続けていればいつかは出なくなってしまいます。
 
正しい発声法をしていても、有名ソプラノ歌手、ナタリー・デセイのように何回も声帯手術を行うほど、それは命を削るような作業であると考えたほうが良いと思います。
 
コンクールのために、競争のために、良心的なトレーナーだったらば歌わせないような曲にまで強引に挑戦している。これでは長い期間歌い続けるのは難しいと言います。
 
音楽とは技術だけの単純なものではなく、人生の経験を重ね、音楽的なものが充実してくる時期にやめなくてはならないということも出てくる。それは大変もったいないことですね。
 
彼がやっている声楽家のための研究所でも、2年やってのびなければ、我慢できなくてやめてしまう方が多いそうです。
外国人と比べると日本人は骨格が違う。だから、声が出来るまで時間がかかるのです。彼は、「CDで聴く名歌手のような声はすぐに出ないと思ったほうが良い」と言っていました。
 
一般的に声楽家は、他の器楽器なとと比較すると演奏寿命が短いといわれています。しかし、正しい方法で歌っていけばもっと長く歌えるはず。現実は厳しく苦難の連続だと思います。しかし、年齢関係なく、ぜひじっくりと腰を落ち着けて勉強していただきたいと思っています。

それが自分のためでもあり、自分を愛することでもあると考えています。

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