全力で何もせず 全力で見守る
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私の教えているピアノの生徒さんが、ある日、大きな失恋をしました。
聴いていても辛い内容で、彼女も相当ショックが大きいのではないかと心配していました。
ある日突然、彼女はレッスンに来なくなってしまったのです。
レッスンには来ないのですが、時間は関係なく、メールや電話がかかってきます。最初のうちはグチや苦しみ、相手の態度を訴えるものでした。しかし、だんだんと彼女の様子がおかしくなってきたのです。精神のバランスを崩し、心の軋みが聴こえてきて、助けを求めているように感じられました。
私は、「これは大変だ。何とかして彼女を救いたい」と、そのとき思ったのです。
ちょうど知り合いに心療内科の医師がいました。
相談したところ、厳しく言われたのです。
「溺れる人を助けにいくようなものですよ。技術や体力のない人が救助にいけば一緒に溺れます。専門家の私でも1時間と時間を決めて会うのです。あなたにそれが出来ますか」
臨床心理学者の河合隼雄さんは、カウンセラーの仕事として、「何もしないこと」に全力を傾注するとおっしゃっています。
そして、「全力で聴く」。
全力で聴くことは、心身ともに大変に疲れることなのだそうです。
「人を救いたい」と考えてしまった自分。これは愚かな自分のエゴなのではないかと思いました。
自分さえも救えない自分が人を救うなど、そんな簡単なものではない。
もどかしく辛いことでした。私は「全力で見守ることしかできない」。そう思いました。
その後彼女は専門家のアドバイスで元気を取り戻したようです。
自分の力で苦労して立派に成長された。
今は心からほっとしています。
難しいことかもしれませんが、「相手にまかせる」ことの大切さ。
その重みを勉強させていただきました。
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