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ライフワークとしての学びを考えます。

エゴを捨て自分が何かの役に立つことを願う

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皆さんにどうしてもご紹介したいピアニストがいます。
 
マリア・ジョアン・ピレシュさん。
1944年生まれ、ポルトガル出身の女性ピアニストです。
 
彼女の弾くモーツァルトやシューベルトは、その深みのある音楽に心が温かくなり浄化されるような気持ちになります。
 
天才少女と言われてデビュー。しかし、80年代に手首の故障でしばらく演奏から遠ざかることになります。
そのとき、「自分が何をすべきか」「どう生きるべきか」自身に問うようになったと言います。ちやほやされること、経済的に豊かになることに疑問を抱いていったそうです。
 
「自分が何かの役に立つことを願って」一時期、教育の分野で活動していましたが「自分の哲学、理念、目標、夢を実現するのは至難の業」と、活動を休止しています。今は自己の内面を見つめなさなければならない時期なのだそうです。

YAMAHA「アーティストの今を知る」にピレシュさんのインタビュー記事が掲載されていましたので引用してお伝えします。

     ・・・・・(以下引用)・・・・・
 
「自分の演奏に自信があるタイプではないので、いつも悩んでいます。その悩みを払拭するには練習するしかないのです。若い人たちにいいたいのもそのことです。
音楽に注意深く耳を傾け、自分自身の目を覚まさせ、いろんな感情を開いていく。エゴは捨て、自分がどう見られるかとか、成功したいなどという考えはもたず、純粋に音楽に身を投じることが大切。可能性は必ずあります。自分の心をオープンに、人生の重要な意味を追求していく姿勢をもち続ける。そういう人の音楽は必ずや人の心に響きます。」
 
     ・・・・・(以上引用)・・・・・

ピアノという楽器は、オーケストラの音を全て一人で演奏してしまうほどの楽器。ある意味エゴイストな面も持ち合わせていなければならない楽器です。「エゴを捨てる」ことは修行でもあります。

ステージ衣装も常にシンプル。深い音楽。凛とした所作。そして、なんともチャーミングな笑顔。素敵な女性。こんな大人の女性になれたら、と思ってしまいます。
 
私自身も、手の怪我で何年もピアノを弾けない時期がありました。全ての仕事を失いました。社会的死だったと思います。時間だけはありました。いろいろ考えました。そのとき、「社会の役に立ちたい」「たくさんの人とかかわっていくような仕事がしたい」と強く願うようになったのです。
今から思えば、天からいただいた時間だったのではないかと思っています。
 
本日はピレシュさんのピアノでモーツァルトのピアノ協奏曲27番の第三楽章を聴いていただきましょう。

モーツァルトがすでに天国を予感している最後のピアノ協奏曲です。深いタッチで孤独に内面を見つめるような表情。しかしただ悲しくナヨナヨとしていないところが彼女らしい。コクのあるクリアーな音色で常に訴えかけてくる大変に意志の強い表現だと思います。5:30からは「カデンツァ」と言って、ピアニストが自分の音楽性を表現するために一人だけで演奏する場面があります。ピレシュさんの、この命を削るような音楽はいかばかりのものなのでしょうか。神が降りてきた演奏に息をのむオーケストラの楽員たちの表情。7:20から、まるで夢から覚めたかのようにオーケストラが静かに合流するのですが、「おかえりなさい」とピレシュさんをやさしく抱きしめる音色が素晴らしい。
トレヴァー・ピノックさんの指揮もデリケートなニュアンスでピアノにぴったりとよりそっている名演です。

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