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個性とは? 神童エフゲニー・キーシン

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10歳でデビューしたロシアのピアニスト、エフゲニー・キーシン(1971年~)。
 
今年で40歳になるのだそうです。デビュー30周年ということになりますね。
キーシンは、あのブーニンと同じような時期に日本でブームを巻き起こし、彼にとって日本は特別な国の一つだそうです。
 
いつかキーシンがサントリーホールで弾いたフランクの「前奏曲、コラールとフーガ」は今もって忘れられません。
フランクのヴァイオリン・ソナタなどと比べると、どう演奏しても地味になってしまうこの曲を、巨大なスケールで力強い説得力、そしてある種の華やかさも持ち合わせて弾ききっていました。
当時、私はやっと本格的にピアノの勉強を開始したばかりでしたが、強烈な印象を受け、すぐにでもこの作品を弾きたくなってしまったほどです。
 
キーシンは、コンクールなど関係なくその桁外れの才能だけでデビューし、そして現在も成長し第一線を走り続けている現代では稀有なピアニストだと思います。
 
彼は「才能のある人が偉大な音楽家になるとは限らない。音楽が好きという気持ちを持ち続け、内面の成長にも配慮してきたのがよかった」(日本経済新聞「文化往来」一昨昨日ほどの記事だと思いました)と語っています。
 
キーシンは正統派ピアニストで優等生。
 
このように書くと、個性が薄く退屈しそう、というイメージがあるかもしれませんが、キーシンは際立ったセンス、ナイーブな感受性、鮮やかかつ素直なテクニックで、単なる優等生とは次元の違う天才だと思います。
 
日本画の画家が描くのに何が一番難しいかというと「一筆書きで描く円」が最も難しいと言います。単純なようですが、円というのはなかなか美しく描けないのだそうです。
 
まさにキーシンの芸術はその円が素晴らしいのです。
 
すごいテクニックや表現力にまったくあざとさというものがない。素直にそこにあるものがそのまま彼の芸術として存在する。
 
巨匠バックハウスもそうでしたし、指揮者の朝比奈隆さんもそうでしたが、彼らは書いてある楽譜に何もかわったことをせずに忠実に演奏した。しかし目をつぶって聴いていても、すぐに彼らの音楽であることが分かります。それは普遍的でさえあります。
これこそ、本当の個性ではないかと考えます。
 
キーシンも同じようなところがあると感じています。
 
この秋、2年ぶりの来日をするキーシン。
ピアニストにとって至高の作品、リストのロ短調ソナタも堂々とそのプログラムに入っています。
さらに深まった姿をみせてくれることでしょう。
楽しみです。

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